叔父の帰還

沙都子「………。」

「おはようございます、沙都子さん」

沙都子「ええ……おはようございますわ……。」

「沙都子さん? ………」

レナ「えるくん……ちょっといい?」

  

「……沙都子さんの叔父が? (北条鉄平か……)」

レナ「う、うん…。」

魅音「身の回りの世話をさせているみたい…。」

梨花「あの様子では…酷いことをされているのです…。顔などに傷はないようですが…。

「……。……」

レナ「えるくん?」

(……親権者の立場から言えば別に北条鉄平は犯罪を犯しているわけではない…。現行犯として取り押さえなければ、身体にあるであろう痣もいくらでも言い逃れできる…。ならばカメラや盗聴器を仕掛けて…馬鹿な、常に北条鉄平がいる状態でどうやって…。
い…いや…ただ仕掛けるだけならいくらでも方法が…なんだ、動揺しているのか私は…)

詩音「もう黙ってられるか! 今すぐ私が鉄平を殺す!」

「!」

  

  

なんとかします

魅音「詩音…。」

詩音「てめぇらはそうやって指くわえてろ! 私が…!」

「待ってください、詩音さん」

詩音「あぁ?」

「人を殺して得られる幸せなんて間違っています。『自分の所為で詩音さんに人殺しをさせてしまった』という傷を沙都子さんに負わせるつもりですか?」

詩音「! …それでもこのまま鉄平を野放しに出来るかァ!! 奇麗事なんていくらでも言え――!」

「……かつての北条悟史さんの失踪…残された沙都子さん。なぜ彼女がここまで意固地になって、周りに助けを求めないのか…。ある程度状況証拠が揃っていれば推察できます。沙都子さんが自分で助けを求めなければ意味が無いんです」

詩音「沙都子は今! この瞬間に傷つけられてんだ!」

「時間はかけませんよ。私に少し任せて下さい」

  

  

  

エルえもん

「沙都子さん」

沙都子「……みなさんはどうしたんですの? …もう授業が…始まりますわよ…。」

「叔父さんが帰ってきたそうですね」

沙都子「!」

「色々と事情は聞き及んでいます。ですが、私は貴方を説得できるとは思っていません」

沙都子「……。

「自分が最後まで耐え切れれば、悟史さんが帰ってくるかもしれない…そう思っているのでしょう? ……それが正しいとか間違っているとか、私には決められませんし、ここで『それは違う』と言った程度では絶対に揺るがない覚悟を、沙都子さんはしている筈なんです。ですから、手段だけ預けておきます」

沙都子「……?」

「『スグカケツケール』!」

沙都子「!?」

「ワタリが発明した、緊急救助要請ツールです。ベルト式なので着用してくださいね。バックル部分を二回叩けばワタリに救助要請がいきます。すぐに駆けつけます。はっ! 『スグカケツケール』ってそういう意味だったんですね…!」

沙都子「……いりませんわ、こんなもの。」

「はい。言うと思いました。ですから『使え』とは言いません。しかしこれは沙都子さんのけじめのようなものだと思ってください」

  

  

サト太くん

沙都子「けじめ…?」

「いま沙都子さんはみんなに心配をかけています。これは分かりますね? ですが、そんなものを分かった上で、沙都子さんは自分の意地を通そうとしている。しかしそんな姿がみなさんの心配を増長させている。沙都子さんとしてはそんなものは煩わしい配慮に過ぎないのでしょうが…」

沙都子「……。」

「……しかし、心配するな、と言われて止めるような友人達ではないことは、他ならぬ沙都子さんが一番知っているのではないですか? 彼らの誰か一人が沙都子さんのような状況に陥れば、沙都子さんが心配することを止められないように」

沙都子「…………。」

「ですから、スグカケツケールはそんなみんなの心配を緩和させるものだと考えてください。
こんなニッチもサッチも行かない状況よりも『助けさえ求めてくれればすぐにでも…』ということであれば、みなさんからは少なくとも自分がどうすればいいのか分からない、という不安を多少は取り除くことができます。………この理屈、分かります?」

沙都子「それは、暗にわたくしが助けを求めることを期待し、助けを求めないわたくしの所為に出来る、ということではありませんの?」

(! ……会話が成立するようになった…判断力が復活してきたな…)

  

  

言葉は無意味

「そう考えて頂いて結構です。というか、私たちは貴方に期待をしているんですよ」

沙都子「……わたくしに?」

「助けてください、沙都子さん。私たちの大切な友人が、私たちに助けを求めてくれないんです」

沙都子「!」

「助けてください、沙都子さん。私たちの大切な友人が、いつまでも自分の足で立とうとしないんです。『にーにーが助けてくれない限りは、自分では戦わない』。そう言って聞かないんです」

沙都子「!!」

「助けてください、沙都子さん」

沙都子「やめてください…やめて!」

「助けてください、沙都子さん。…こんなにも言葉が無力なんです」

沙都子「! …?」

「いくら沙都子さんに勇気を発揮して欲しくて言葉を紡いでも、届かないんです。そちらから手を伸ばして貰わないと、届かないんです。助けてください。沙都子さんを助けることが出来ない私たちを、助けてください」

沙都子「………。

レナ「あ…沙都子ちゃん!」

魅音「……家に帰ったのかな……。

詩音「鉄平のいる家に!? 大丈夫なのかよ!」

「…分かりません」

詩音「はぁ!?」

「……自分で自分のことが理解できなくなったのは初めてです。他人のことで動揺している自分も始めてのことです。…………。…………。とにかく、手段は与えました。これで沙都子さんさえ我々に助けを求めてくれれば、いつでも……」

レナ「……確かに沙都子ちゃんは甘えているのかもしれない。でも、まだ子供だよ?」

「………。………」

レナ「そこまでの強さを期待するのは酷なんじゃないかな。……無理にでも手を掴んで助ける方法があれば、今はそれがいいんだと思うけど…。」

「………。………」

  

  

もしも。

 ……助けてください、沙都子さん……

沙都子「……。」

鉄平「sjfどjfdさjfjふぉ!!!(訳:少し部屋が汚いと私は感じました)」

沙都子「ひっ!」

鉄平「えおf8jvgfjffふぉ!!!(訳:私は貴方に掃除しておけと言いました)」

  

ワタリ「スイッチが2回押されることで北条宅周囲に待機している警官の携帯がなり、虐待の現行犯として取り押さえる手筈になっております」

レナ「でも、もし沙都子ちゃんから助けを求められても、やっぱり恐い思いをさせちゃうんだね。」

ワタリ「………。」

魅音「沙都子は押すのかな……。」

詩音「押さなかったら、私が鉄平をぶち殺すだけ。」

魅音「詩音…。」

  

鉄平「さふしあはhfdさhdhふぉ!!!(訳:誰に育てて貰っていると思っているのですか? せめて役に立ってください)」

沙都子「ごめ、ご、ごめんなさい! 今すぐ片付けますから…! お買い物にも行きますから!」

 …兄が助けてくれない限りは、自分では戦わない…

沙都子「お洗濯もしますから!」

 …ここで『それは違う』と言った程度では絶対に揺るがない覚悟を…

沙都子(違う、そんな覚悟なんて…!)

  

  

もしもしも

沙都子「いや、怒鳴らないで、怒鳴らないで! ………。」

  

  楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったこと、全てひっくるめて、沙都子を動かすに足るものだと信じている。そこに込められた魂を信じている。

  

沙都子「!」

鉄平「!? m、ふjysjfhsjkfへふぉ!!(訳:どうしたのですか? なぜ突然喋らなくなったのですか?)」

沙都子(もしも……。)

……彼らの誰か一人が沙都子さんのような状況に陥れば……

沙都子(…………こんなこと……もし、梨花が………。……!)

……はい。沙都子さんなら出来ますよ……

沙都子(……にーにーにも、出来たこと……。)

沙都子「……淑女たるもの……。

鉄平「kgkgkgkぎshjgkdふぉ!!?(訳:ブツブツと何を言っているのですか?)」

沙都子「もう……。」

鉄平「!?」

沙都子「もう、何年も前の私じゃありませんわよ!」

  

   カチカチ

  

  

来ちゃった

  

 ピー ピー

  

ワタリ「!!」

レナ「なに!?」

魅音「これは……。」

詩音「沙都子……!」

ワタリ「L…! ……。…?」

  

刑事A「来た! 突入だ!」

刑事B(あれ、いま…?)

  

鉄平「うぎゃあ!(訳:うぎゃあ!)」

沙都子(………? わたくし、殴られて……ない? …!)

沙都子「……あ……。

  

ワタリ「Lはどこに!? こ、これは! 変わり身の術だってばよ!」

魅音「エルちゃん!」

  

沙都子「……遅いんじゃありませんの?」

「すみません」

  

  

ぶっちゃけた話

「……私の権限を使って、無理矢理に鉄平をどうにかすることも出来たんです。証拠なんてものはそれこそいくらでもでっち上げることはできましたし。手段を問わず沙都子さんと北条鉄平を引き離す、という結果だけを求めるなら、それこそ数多の方法があります。
例えば先ほど詩音さんが仰っていたように北条鉄平を殺害すること。殺人で人が救えるとは思えませんが、傷はいつか癒えると無茶な期待をすれば……この方法もアリと言えばアリです。雛見沢の特性を考えると、実行犯のアリバイを村ぐるみで隠蔽することも不可能ではないでしょう。
北条鉄平が何者かに殺された。しかし誰のアリバイにも不備が無いことを私達全員が口を揃えて証言している。これで通ります。死体を隠すこともそれほど難しいことでは無いと思いますし、殺害が綿流しの夜ならば尚のこと良しです。まあ余りにも極端過ぎる例ではありますが……」

梨花(! ……綿流しの事を、知っている…?)

レナ「でもエルくんは沙都子ちゃんに助けを求めて欲しかった。」

「………はい。強くあれ、なんて口にするほど傲慢ではありませんが、沙都子さんから『にーにー』という逃げ場所を取り上げないと、何か別の形で彼女はまた繰り返してしまう…それを避けたかったんです。
…と、頭の中では考えていましたが……考えている最中でさえ、それが正しいのかどうか分かりませんでした。レナさんから『沙都子さんはまだ子供』と言われたとき…迷いました」

(あるいは……犯人逮捕には確実な証拠をあげる、という私のやり方を崩したくなかっただけなのか……。……自分を冷静に分析できない)

魅音「エルちゃん……。」

「私はこれまで友人に恵まれなかったもので、その接し方が分かりません。理詰めで考えようとしても、根底で冷静になりきれないんです……。初めての経験です」

ワタリ「ロスト・ヴァージンですね」

魅音「なに言ってんの!?」

詩音「けどエルちゃんは『スグカケツケール』が鳴る前に走りだしてたじゃないですか。まるでヒーローみたいで…かっこよかったですよ?」

「…詩音さん……好きになりますよ?」

詩音「…いや、ほら、私には悟史くんがいますし…。

「残念です。ワタリ、沙都子さんは…」

ワタリ「はい、病院にてごゆっくりと眠られておりますよ」

「そうか……よかった」

梨花(……エル……ありがとう……。