鷹野「……何をしているのかしら。パソコン抱えて。」
L「ちょっと動画を落とそうかな、と。こう見えても私…蒼井そらのファンでして」
ワタリ「私は荻原舞の方が……」
鷹野「梨花ちゃんはどこ?」
L「富竹さんはどこですか?」
鷹野「ここよ。もうすっごい重かったのよ。引きずっちゃったわ。許してねジロウさん。」
L「ところで……生きていたんですね」
鷹野「何の話かしら?」
L「……。富竹さんは生きているんでしょうね」
鷹野「何を言ってるの? もちろんよ。確かめてもいいわ。」
レナ「レナがいくよ。」
沙都子「レナさん……。」
ワタリ「いえ、私が…」
詩音「………。」
ワタリ「……確かに富竹氏の生存を確認しました」
鷹野「ね? 分かったでしょ? 梨花ちゃんは? 演舞がとてもかわいかったから、会いたいわ…くすくす。」
梨花「……ここなのです。」
鷹野「こんばんは…くすくす。さて、それでどうするのかしら?」
L「……本当に富竹さんをここに連れてきましたか。これで沙都子さんのスグカケツケールは役に立たなくなりました」
鷹野(思 い 通 り !!)
鷹野(お祭りの時……竜崎エルはジロウさんにわたあめをプレゼントしたわね。その時にこっそりとジロウさんに何かを取り付けていたのを私は見逃さなかった。
沙都子ちゃんの事件は山狗の監視下にあったから、あの時に何があったのかも大体は掴んでいる……。だからその際にしようした発信機を今回も使うことは『伏線』として読んでいたわ。ここにジロウさんが来なかった場合の予備策だったんでしょうけど……はい、これで一個潰したわ。でもそれだけじゃないでしょう?
……くすくす。抱えているパソコン……ここの状況や私との会話、もしくは映像を入手し、P2P にでも流そうとしていたのかしら? 残念だけど、それも読んでいる。対応策は既に完了している。他にも、この場で出来ることは沢山ある……。あなたのギミックは読みに読んでいるのよ。
私の提示した罠にあなたは乗り、そしてそれを上回ってくる。なら、こちらはそれすらも想定して動けばいい。……ゾクゾクするわ。たまらない! でも……)
鷹野「そろそろいいかしら? 私のワンちゃん達が今か今かと待ち構えているのよ。出来ることは可能な限りやって御覧なさい。私は既に策を講じ終わっているけどね……くすくす。あはは!」
L「……。……」
鷹野「さぁ、ワンちゃん達。……皆殺しにしなさい。」
L「!」
‐数時間前‐
L「魅音さん、リンゴ飴を買ったのですが、一ついかがですか?」
魅音「あ……ありがとう。」
L「……詩音さんに言われたことを気にしているのですか?」
魅音「………。」
L「……私は貴方の立場も気持ちも知り得ません。全世界の警察を動かせる権限を持ってはいますが、基本的には独断専行の人間です。魅音さんのように帝王学を学んだわけでもありませんし、必要なわけでもない。ですから全ては私個人の勝手な意見なので大変恐縮なのですが……」
魅音「……?」
L「魅音さんは、唯一部活メンバーの中で完成している、ということです」
魅音「え……。」
L「人格的なことや能力的なことを言っているのではなく、貴方の在り方、というのでしょうか」
魅音「在り方…。」
L「魅音さんは部活ではとても意気揚揚としていて頼もしい風貌ですが、肝心な時に打たれ弱い」
魅音「あれ?」
L「固めた地盤が崩されると途端に力尽きてしまう」
魅音「あれれ?」
L「ヘタレ」
魅音「うぉい!」
L「空気が読めない」
魅音「…おーい…。」
L「これは全部魅音さんの弱点と呼べるものですが……。私に言わせればこんなものは些細な問題でしかない。魅音さんは身の安全が保障された温室でこそ、その真価を発揮するのですから」
魅音「それはおじさん……誉められてるのかな?」
L「もちろん。いいですか。貴方は命令を下す側の人間であり、下々の頂点に立つものです。こういう言い方をすると魅音さんはいい気がしないでしょうが……。安全な場所で、圧倒的な配下を従え、戦に勝利する。この在り方は『王』たる貴方にのみ許された特権なんです」
魅音「……『王』。」
L「続きます」
L「……レナさんらの気質や才能や持ち物に憧れ、嫉妬することもあるかもしれません。しかし精神的な成長だとか、意志だとか、そういった内面的なものでは勝ち取りえないものを、あなたは既に所持しています」
魅音「……園崎家。」
L「はい。確かに他の部活メンバーは美しく素晴らしいものを有している。それらは魅音さんの目にとても輝かしいものとして映っていて、対して自分の持つ家柄や技能はひどく即物的なものに見えてしまうかもしれない。
……本来は、自分のものでは無かったはず、というのも加えて」
魅音「! エルちゃん…!」
L「貴方が人生の殆どをかけて自分に叩き込んできた知識、予め用意された財産、そしてそれを得る機会を持ちえた偶然……これらは全て魅音さんの『王者の才覚』です。部活メンバーは各々が自分の未来を模索する時期であり、言うなれば不安定と言えます。しかし魅音さんは違う。先に述べたように、そういう意味で貴方は完成している」
魅音「……他の生き方が出来ない、みたいに聞こえるなぁ~。」
L「そうですか? 欠けているものは認識です。己が如何なる存在か、という認識。自分が本物か偽物かなんて、本当に大切なことですか? そもそも貴方は、この地球上で最も長く『園崎魅音』を続けてきた唯一の存在なんですよ」
魅音「……!」
L「継続は力、なんて言い方をすれば陳腐に聞こえてしまいますが、魅音さんが背負い続けてきた鬼や、架せられた努力は誰にも真似できることじゃありません。もちろん、魅音さんが他人と自分を比べてショボーンとしたりするのはご自由です。しかし園崎魅音という存在は、そんなものでは揺るぎようのないものをその骨子に据えている。私の個人的且つ勝手な見解ですが、つまりはそういうことです」
魅音「続くの?」
L「はい」
魅音「つまり……自信を持てってこと?」
L「まあ……要約してしまえば。ただ、自信を持とうが持つまいが貴方は変わりません。逆を言えば魅音さんはどう足掻いても園崎魅音でしかないのですから。時間さえ経過すれば魅音さんの立場はさらに強化されるわけですし。……それを生涯の苦悩とするか、それこそ私がどうこう言えることではないです。しかし」
魅音「私が何者であるかって認識を常に念頭に置いておかないと、いざという時に動けなくなる。」
L「……そうです。園崎家を全てひっくるめて魅音さんなんですから。それに引け目を感じたり、個人としての自身と分離させてしまうと、そのハツラツとした性格や頼りがいのある行動力やその他諸々の魅力が、半減してしまいます」
魅音「……うん。」
L「魅音さんの『魅』は、魅力の『魅』です」
魅音「……。…誉められたってことでいいんだよね?」
L「そうなんですか?」
魅音「うぉい!」
鷹野「……。……。……?」
L「……」
詩音「皆殺しだなんて、おっかないですねー。」
沙都子「恐いですわー!」
梨花「……。……。」
レナ「ワンちゃん……その響きだけでかぁいいんだよ~☆」
ワタリ「お持ち帰りィィィヤァァッ! すみません、レナ様の台詞を……」
レナ「レ、レナそんなこと言わないよ!」
鷹野「なによ、これ…! どうしたって言うのよ……! ………。………。………。ちょっと待って……。園崎魅音は、どこ?」
L「……聞こえませんか? 狂犬駆除の騒音が」
鷹野「!」
山狗A「園崎組だワン! すっげぇ数! 周囲を完全に囲まれ……アッー!」
鷹野「どういうこと!? どうして!」
山狗B「アッー!」
鷹野「それどうやって発音してんの!?」
L「残念でしたね」
鷹野「……! ぐっ……!」
鷹野「そんな……ありえない…。園崎魅音がここにいることは確認されていたはずよ……!」
L「そうなんですか?」
詩音「あー…ごめんなさい。それ私です。」
鷹野「……嘘よ……!」
沙都子「つまらない入れ替わりトリックに引っかかっちゃいましたわねー。」
レナ「一人ずつ外に手をふったとことで気づくべきだったんだよ。」
L「罠? 策? なんのことです? こちらはこういう状況さえ作れれば良かった。内通者の疑いを捨てきれないあなたがここに山狗を全員集めることは読んでいましたから。もっと高度な対応でも期待していましたか?
……でしょうね。だからこんな古典的な手に引っかかった。…大石警部ですか? ……はい。全て終わりました。古手宅にお願いします」
鷹野「……園崎魅音がこれだけの人数を集めたっていうの……? 当主でもないのに…? それだけの根拠も無いのに…? あの、土壇場で力が出せない、甘えん坊の園崎魅音が…? 私の認識違いだったっていうの?」
詩音「いえ、それで合ってますよ。」
鷹野「え?」
詩音「この状況も、全ては憶測にしか過ぎない。あの鬼婆がこれほど迅速に、これだけの園崎組を動かすとはとても思えません。どうせまた、おっかなびっくり婆さまの顔色伺いながら、心臓バックバクいわせてお願いしたんじゃないですか? 泣き喚いて叫び散らして…怒られて怒鳴られて、もしかして爪剥がされたりしちゃったかもしれないですね~。」
レナ「……詩ぃちゃん……。」
詩音「でも。」
レナ「?」
詩音「泣き喚いたり叫び散らしたり、怒られて怒鳴られて、最悪、爪を剥がされる。言ってしまえばたったそれっぽっちのことですよ? たったそれっぽっちのことで、ここまでのことが出来てしまうんです。園崎魅音は……これほどまでの存在だったってことなんですよ。……すごいじゃん、魅音。」
L「いくら次期党首と言っても、魅音さんにここまでの人員を動かすのは不可能です。ですから、それが出来る方に『お願い』しに行って貰いました。それが叶わないならこちらの負け。ここまでスマートに決まったから良かったものの、神頼み……この場合は鬼頼みですか? とてもハイリスクな賭けでした。……勝ちましたけどね。
……今でこそ白状しますけど、本当にピンチでした。ここで死ぬのかと思いましたよ。必死で策を考えました。こちらの策に対してあなたが先読みしていることも込みで、なんとかしてその上を行くために頭をフルに働かせました」
沙都子「……角砂糖をそのままガリガリ食べるくらい頭を使ってましたわね。」
L「はい。……しかし幾重の策を講じようとも、不安は拭えませんでした。それもそのはず、そもそも鷹野さんが作り出した状況が前提にあるのですから、どれほど思考を構築しようとも全て想定されている……という不安です。そこで砂糖が無くなったんです。ワタリに補充させようと思い……気づきました。
ここで考えるのを止めてみるのも一つの手なのではないのかと。私が考えることそのものが鷹野さんの策の内であるのなら、考えることを放棄してしまえば勝機が見えてくるのではないか、と。そこで魅音さんに全てを委ねることを思いついたわけです」
鷹野「……ッッッ!」
L「策と策をぶつけ合うという決戦場で人頼みですよ? そんなこと、高度な頭脳戦を望む鷹野さんは真っ先に捨てる選択肢でしょう。そう考えたらあとは簡単でした。頼まなくても仕組まなくても、貴方は勝手に脳内知略戦を複雑化してくれたんですから。
読み過ぎましたね、鷹野三四。いえ、自分の人生に物語性を求めすぎたんです。神になる。しかしその直前に、世界最高の探偵なる敵が現れた。これは試練だ。神になる者には相応しい物語だ。……そんなところでしょう。
残念ですが、あなたは神なんかじゃありません。ただの夢見がちな殺人鬼です」
鷹野「……!」
L「現実を飲み込めましたか? あなたの負けです。鷹野三四」
鷹野「……にゃ……。にゃああああああああああああああああ!!!」
L「終わりましたね」
梨花「……はい…なのです。」
鷹野「そうそう……私がこんなことを企む原因になった、凄く泣ける過去話があるんだけど、聞きたいかしら?」
L「結構です」
鷹野「それは残念……くすくす。」
L「鷹野さん」
鷹野「……?」
L「……いえ、なんでもありません」
鷹野「……ジロウさんが起きたら…。」
L「はい」
鷹野「コーヒーを入れてあげて。彼、寝起きに絶対飲むのよ。」
L「……はい」
赤坂「久しぶりだね梨花ちゃん。ところでこの騒ぎはなに?」
梨花「……温泉は楽しかったのですか?」
赤坂「もう最高だネ! 梨花ちゃんも今度行こうね。」
梨花「遠慮しておくのです。」
赤坂「えー行こうよ!」
梨花「遠慮しておくのです。」
赤坂「行くんだよッ!!」
梨花「うるっせーよなのです。」
L「詩音さん。突然ですがお電話です」
詩音「? 私に? もしもし……。……嘘……。」
L「ワタリに探させました」
沙都子「え? え? なんですの?」
詩音「悟史くん……!」
沙都子「に、…にーにー!?」
レナ「…! なに、この取ってつけたようなハッピーエンドは!?」
魅音「みんなー! みんなー。みんなー……。あっれー? どこー? うわーん。」
梨花「偽名…ですか?」
L「ええ。まあ『東京』なんて場所に身を置いているくらいですから、名前など無いに等しいというのは分かっていました。鷹野三四という名前は偽名でした。本人が先程吐いたようですよ。何でしょうかね。全てがどうでも良くなったようです」
梨花「そうなのですか……。」
L「これが鷹野三四を始めとする、山狗と呼ばれる組織、そして『東京』の主なメンバーの詳細だそうです」
梨花「見せてくれるのですか?」
L「はい。ついでに参考ばかりにお話だけ聞かせて頂きたいと思っています。ケーキ食べますか?」
梨花「いえ、遠慮するのです。どれが鷹野の名前なのですか?」
L「これです。では、梨花さんの分のケーキは頂きますね」
梨花「あの…。」
L「はい?」
梨花「色々とありがとうなのです。」
L「? 友達ですから」
L「それじゃあ、またどこかで、なんていうのは無責任な言葉でしょうか。富竹さんには事の真相を抱えて『東京』に戻って貰いましたし、雛見沢症候群などへのその後の処置は魅音さんに伝えてあります。私が雛見沢ですることはもう何もなくなってしまいました」
魅音「うん……。誰も不安にならないように……。みんなで力を合わせて……。それは園崎だから出来ること。古い確執も全部、園崎なら壊せる。……私の当主としてのやり方が、分かった気がする。」
レナ「エルくん…! じゃあね、じゃあね……!」
L「…泣かないでください」
詩音「寂しくなりますよ。」
沙都子「エルさんからは得たものが大きすぎて、一生かかっても返せそうにありませんわね。」
L「気にしないでください……と、言いたいところですが、じゃあ一つだけ」
梨花「…なんでも言うのですよ。」
L「私と一生友達でいてください。それでもう、本当に十分です」
魅音「……なんかそんなこといまさら言われてもねぇ。」
詩音「そうですよ。なに言っちゃってんですか?」
レナ「エルくん…! エルくん…!」
L「…泣かないでください…。……」
沙都子「? どうしましたの?」
L「……こんな気分は初めてです。余計なことまで口走ってしまいそうな……。……。……。………教えておきたいことがあります」
詩音「?」
L「……私の……私の、本当の名前は……」
梨花「終わったのですね。……。」
羽入「………………。」
梨花「終わってしまったのです。……。」
羽入「…………。………………。」
梨花「……羽入?」
羽入「……………………………………………………………………。
……………………………………………………………………。
……………………………………………………………………。
……………………………………………………………………。
……………………………………………………………………。」
梨花「どうしたの?」
羽入「なんでもないのですよ。本当に良かった……正直、ボクには今でも信じられないのですよ。」
梨花「あはは……そうかもね。」
羽入「……。でも不思議なのです。梨花はあまり嬉しそうじゃないのです。」
梨花「! ……。な、なにを……。」
羽入「もしかして……彼のことなのですか?」
梨花「!」
羽入「まさか、ここでもう一度やり直したいなんて言わないのですよね?」
梨花「……出来るの?」
羽入「! ……。出来るのですよ。けど、馬鹿なことを考えるのは止めるのです。梨花が死んでもこの世界は続いていくのです。残された人たちはきっと悲しむのです。……。……。」
梨花「そうよね……。」
羽入「でも、彼のいないこの世界で生きていくというのは残酷なことかもしれないのですね……。」
梨花「……。」
羽入「……結局は梨花が決めることなのです。今回が上手くいったのですから、今度も上手くいかもしれないと思うのも普通のことなのです。」
梨花「そう……そうなのよ! ……だけど……。」
羽入「私は本心で梨花とずっと一緒にいることを望んでいるのです。そんな私が言うのはおかしいのですが……。
梨花のしたいようにするといいのですよ。もしかしたら梨花がやり直した分だけ、その世界は改善されるかもしれないのです。助からなかった人を助けられるかも。だって梨花には、もう『一度突破した』という前例があるのですから。
諦めるなんて梨花らしくないのですよ。諦めなけば掴めるのです。それを今回、証明して見せたではないのですか? 失敗することを恐れては駄目なのです。
………………やり直しは無限に出来るのですから。」
梨花「ぅ……ぅぅ……。」