まりや視点。前回の「たかこちゃんとまりやちゃん」とセットで読むと多少楽しめるかも。まりや視点は初めてだから、ちょっと書きにくい(←早速言い訳)
桜の木の下でのアフタヌーンティはまだ続いている。昔の事を思い出して貴子が多少不機嫌になっている以外は概ね何時も通り。
貴子が不機嫌になるのも、何時も通りといえば何時も通り。
「しかし、まりやが振り回してたのは、僕だけじゃなかったんですね」
「瑞穂さんは良くまりやさんとこの歳まで、友人付き合いが出来ましたわね」
貴子が私が持ってきたマフィンを口に運んでいる。文句があるなら食うな。
「あんただって、私に色々してくれたじゃないの」
「あら、そうでしたかしら?」
確か・・・あぁ、あの貴子置き去り事件の1週間後くらいの話だったかな?私と貴子は二人で、あの空き地のそばで遊んでいた。
その日はかくれんぼをしようと言う事になり、まずは貴子が鬼になった。
大きな声で貴子が数を数える声が広い空き地に響く。
「・・・きゅじゅ~きゅ~ひゃ~く。もういいかーい?」
「もーいいよ~」
私は空き地に放置されたドラム缶の中にもぐりこんでいた。赤錆の浮いたドラム缶にはいくつも虫食いのような穴が開いていて、私を探す貴子を見ていられる。ここならそう簡単には見つからないし、探している貴子を見ていることも出来る。
「まりやちゃ~ん」
貴子は前回置き去りにされた事を思い出したのか、少し不安そうな顔をして、空き地の中をパタパタと走り回っていた。
私は見つからない様に、ドラム缶の中で息を殺して、そんな貴子をじっと見ていた。
貴子は私の隠れているドラム缶のすぐ近くにまで来るのだが、なぜか、ドラム缶の中にまでは気が回らない。
『なんて間抜けな子なんだろう・・・』
幼心に私はそう思った。
貴子がドラム缶の中を覗いたら、絶対に驚かせてやろうと思ってるのに・・・ちょうど良い具合にドラム缶の中にカエルがいたのも見つけたし♪
見つけたカエルを手の中に優しく握りこみ、貴子がドラム缶を覗くその一瞬を私は待ち付けた・・・
しかし、貴子はいつまで経ってもドラム缶の存在に気が付かない。良い具合に風を防いでくれているドラム缶の中は暖かくて、私はその中でついうとうとし始めてしまった・・・そして・・・
「私は、そのまま、家族が警察に届けて大騒ぎするまで、ドラム缶の中で寝てたのよ!」
バン!とテーブルをたたいて立ち上がった私が大きな声を上げる。しかし、貴子はきょとんとした顔で「えーっと・・・」とつぶやきながら、視線を右斜め上に漂わせている。どう見ても覚えているような様子はない。
むかむかむかむか・・・一触即発の雰囲気を察した瑞穂ちゃんが口を挟んでくる。
「まりやって、昔からカエルとかイモリとか、普通の女の子が苦手な物に耐性があったよね・・・」
ふぅと軽く一息ついて、椅子に座りなおす。貴子は相変わらず、虚空に視線を漂わせながら、記憶を探っている。
「良いじゃない、別に。カエルもイモリも可愛いわよ」
「そっ・・・そうかなぁ・・・」
あきれ返っている瑞穂ちゃんとそんな会話をしていると、記憶の糸を手繰っていた貴子が、ぽんと一つ手を叩いた。
「思い出しましたわ。探してるうちに塾の時間になってしまったので、私、そのまま帰ってしまいましたの」
よくもまあぬけぬけと・・・
「それに私、何度もまりやさんの事を呼んで探しましたし、『塾の時間だから、もう帰る』とも言いましたわよ」
「そもそも、あの小さな空き地で、何で私が隠れてるドラム缶が見つからないわけ?」
私が起きてる間だけでも5回はドラム缶の前を通り過ぎてたくせに。
「それはそこ、灯台モトふ・・・」
「灯台モト冬樹とか言う中途半端なボケは許さないわよ」
中途半端なボケで誤魔化そうとした貴子が、小さな声で「ちっ」とつぶやいたのを私は聞き逃さなかった。
置き去りって言えば、幼等部の時だって・・・
幼等部の広い運動場での自由時間。
「たかこちゃん、おままごとしよう」
無駄に玩具の充実していた恵泉学園の幼等部。私はその中からずっと前から目をつけていたおままごとセットをキープして、貴子に声をかけた。
瑞穂ちゃんは外見は女の子以上に女の子らしいのに、この手の遊びにはほとんど付き合ってくれなかったので、おままごとを友達と一緒にするのは、そのときがほとんど初めてのような物だった。
「うん、良いよ」
栗色の髪を大きく上下に動かし、嬉しそうに返事をする貴子を見て、私は誘ってよかったと心底思った。
「じゃあ、わたしがママ、たかこちゃんはパパね」
玩具箱の中にあった大きなぬいぐるみを、運動場に引かれた敷物の上に座らせて、娘役にした。
「ぱぱ、いってらっしゃい」
ぬいぐるみの手を握って大きく振りながら、設定上の玄関から、パパ役の貴子を送り出す
「いってきまーす」
大きく手を振り返す貴子。私はその貴子を見送り、娘役のぬいぐるみと遊びながら、その帰りを待っていた。
しかし、貴子はいつまで経っても帰ってこない。「あれ?」と思って顔を上げると、貴子は別の女の子とイチャイチャして居る。
「・・・たかこちゃん?」
「まりやちゃんだめだよ。ちゃんとうわきげんばをおさえなきゃ」
貴子は屈託のない笑みを浮かべ、私にそう言った。
「あんたンちの特殊な家庭環境をおままごとで再現するんじゃないわよ!」
バンともう一度テーブルを叩いて立ち上がる。そんな私を見上げながら、貴子はさらっとこういった。
「我が家では父親と言えば、別の女の所に行って帰ってこないものでしたからねぇ・・・」
そう言う家庭環境に同情しなくもないが、それを幼稚園のおままごとで再現される身にもなれ。
「私は、いつになったらまりやさんが怒鳴り込んでくるのだろうかと、待っていましたのよ?」
「子供って凄い所まで見てるんだね」
瑞穂ちゃん、そんな細かい所まで見てる幼稚園児は貴子くらいだから。
「まあ、これは幼い頃のいい思い出ですわね」
「あんたこそ無理矢理綺麗にまとめてるんじゃないわよ」
そして、この話にもちょっとだけ続きがあった。
当時の私は貴子の言った「うわきげんばをおさえる」と言う言葉の意味がいまいちよく判っていなかった。
だから、仕方ないので、幼等部の若くて優しいと言う評判の保母さんにたずねてみる事にしたのだ。
「せんせー、『うわきげんばをおさえる』ってどういういみ?」
その保母さんの持っていたリ○ちゃん人形がミシッと嫌な音を立てて、首がポロリと落ちた・・・
幼心に不味い事を聞いちゃったなぁ~と、力一杯後悔するくらい、その保母さんは怖い顔をしていた。
(おしまい)