貴子視点。調子に乗って第3弾。

たかこちゃんとまりやちゃん2

お互いにお互いの嫌な思い出を掘り起こした所為で、私とまりやさん、両方の機嫌は最悪に悪化していた。

別に10年以上前のことを根に持っているわけではありませんが、それでも思い出せば嫌な気分になるのは当然と言うもの。

「あの・・・こう、もうちょっと良い思い出と言うのはないのですか?」

そんな雰囲気を察した瑞穂さんが、少し顔を引きつらせながら、そう言ってきた。

その瑞穂さんの言葉を聞いて、私とまりやさんがお互いの顔をちらりと横目で見て、声をそろえて

「ないわね」

「ありませんわ」

と、きっぱり言い切ってしまった。そんな情けない顔をされても困りますわ、瑞穂さん。本当にないの・・・

「あぁ、そういえば、一つ・・・あったと言えば、ありましたわね・・・」

「えっ、あったぁ?」

私のその言葉にまりやさんが、胡散臭そうな顔をして見せる。まあ、私としてもあるのが非常に不思議なのですけど。

  

幼等部1年のクリスマスの事だった。前回オチに使われた先生が、黒板に大きく「クリスマス会」と書いた。

「明日はクリスマスだから、みなさんもお友達同士でプレゼントの交換をしましょうね」

明るい声で、そう宣言した後、その「プレゼント」の注意事項を色々と話をしている。

高すぎるのは駄目、ちゃんと貰って嬉しい物にしましょう、等々。しかし、園児達はそんな先生の言葉などは全く聞いてるはずもなく、ワイワイと近くに座っている友達と楽しげにおしゃべりをしていた。

「ねえねえ、たかこちゃんはなにをもってくるの?」

隣の席に座っていたまりやさんが、楽しげに私に声をかけてきた。

急に言われても簡単に考え付く事ではない。私は宙に視線をめぐらしながら、あれこれと思案に暮れた結果。

「んっとね、海で拾った貝殻!大きくて、きらきらしてて、凄く綺麗なんだよ!」

父や母の買い与えてくれた玩具は沢山あったが、それよりも自分で見つけたその貝殻が、当時の私の一番の宝物だった。

その宝物を手放すのは、凄く惜しいような気がしたが、逆にそれだけ惜しい物なのだから、誰に上げても喜ばれるだろうとも思った。

「わぁ~いいなぁ~ねえねえ、じゃぁ、わたしもいちばんだいじなおもちゃをあげるから、たかこちゃんのそれ、わたしにちょうだい」

「でも、せんせい、たかいおもちゃとかはだめだっていってたよ?」

「うん、だいじょうぶ、ぜんぜんたかくないから」

「じゃぁ、たのしみにしてるね」

そんな話をしていると、先生がパンパンと手を叩いて、おしゃべりの時間が終了した事を園児達に伝えた。

「はぁい、プレゼントのお話は終わりですよ~」

先生はざわざわと騒がしくおしゃべりをしている園児たちをニコニコと優しい笑みで見ながら、静かになるのをまっていた。

「せんせいもだれかとぷれぜんとこうかんするんですか?」

そんな質問が、園児の一人から発せられた瞬間、先生の握っていたチョークがベキ!と嫌な音を立てて砕け散った。

騒がしかった教室に、針が落ちても判る静けさが舞い降りた。

そして、翌日。私は小さなポシェットに、丁寧にティッシュで包んだ貝殻をいれて、学園にやって来ていた。

朝からずっとポシェットを胸の前で大事に抱え、転ばないよう、何かにぶつけないよう、子供ながらに涙ぐましいまでに細心の注意を払ったものだった。

早くプレゼントを交換したい、前日から私の頭にあったのはそれだけだった。

しかし、幼い私にもわかるくらいまりやさんは何処か不機嫌と言うか、沈んだ表情だった。

「まりやちゃん、どうしたの?」

「・・・ごめんね、たかこちゃん・・・いちばんのおもちゃ、もってこれなった・・・」

あぁ、やっぱり、高すぎる玩具だったんだな、と私はすぐに察した。御門家は凄いお金持ちだ、と言う話を聞いた記憶が思い起こされる。

「ママがどうしてもだめだって・・・」

いつも明るく元気なまりやさんが落ち込んでいるのを見ると、私まで悲しい気分になってきた。

「いいよ!まりやちゃんがくれるものなら、なんでもうれしいから。だいじにするよ!」

私はまりやさんを慰める為、精一杯明るい顔をして見せた。

  

「あぁ、そんな事もあったわね・・・」

「本当に良い思い出ですね」

「確か、結局、まりやさんから頂いたのは、まりやさんのお母様の手作り人形でしたわね」

人間って嫌な記憶ばかりが残りやすいものだ、とはよく言いますが・・・確かにそのとおりでしたわね。

「でも、結局、あの時上げようと思った物は、貴子の物になったのよ?」

ぎすぎすしていた空気が、穏やかな物に変わって、まりやさんが悪戯っぽい笑みを浮かべてそういった。

「あっ!思い出した・・・」

その言葉を聞いた瑞穂さんがちょっと苦笑いを浮かべた。

  

クリスマス会の当日、まりやはいつもよりも早く起き、母親にどうしてもせがんで、学園に向かう前に鏑木家と寄った。

そして、まだ、寝とぼけている瑞穂の手を強く握って・・・

「やだぁ!たかこちゃんにみずほちゃんをあげるやくそくしたの!!」

と、散々駄々をこねた。

「たかこちゃんってだれだよ~~はなしてよ、まりや~~~」

  

「と、まあ、こう言う事があったわけよ」

「貝殻一つで友達を売ろうとしないでよ・・・まりや・・・」

(おしまい)