相変わらず貴子視点 書いてる人がリアルに風邪。風邪になった瞬間「ネタにしちゃおう」と思った自分がちょっとだけ好き。

風邪

ピッピッピッピッ・・・目覚まし時計の電子音が枕元で小さく響く。裸の腕を伸ばし、目覚ましの頭を軽く叩こうとするが、なんだか凄く腕が重たい。とろとろとしているうちに、瑞穂さんの手が伸び、先に目覚ましを切ってしまった。

「おはようございます、貴子さん」

軽く目を擦りながら、瑞穂さんが私の顔を覗き込んでくる。3ヶ月ほど前に家にこの転がり込んできた私、その日から一緒に寝ているのだが、いつまで経っても瑞穂さんに寝顔を見られるのは恥ずかしい。

「おばびょうごばみしゅ」

ふぇ?声がおかしい・・・

喉の奥にガムテープが張り付いているような感触。あっ、鼻も詰まってるし、なんと言っても頭の芯で鐘がなってるように痛い。

「・・・風邪?」

コクコクと大きく頷く。返事をしたら変な声になるので、出来るだけしゃべらないように注意をする。

お風呂上りにそのまま「シテ」しまい、そのまま寝てしまったのが悪かったのかも・・・って、よく考えると私、まだ裸ですわね。

とりあえず、何か着なければ・・・と思い、ベッドから立ち上がろうとしたのだが、ちょっと足元がおぼつかない。

「起きない方が良いですよ、貴子さん。今、風邪薬を持ってきますから」

「ぞのばえび、ぶく、くだひゃい」

あまり喋りたくはないのですが・・・流石に「服をください」をジェスチャーでやるのは無理。

「えっと・・・貴子さんの服ってどこに入れてました?」

「ぐろーじぇっとのいちびゃんじたに、ぱびゃまありみゃふ」

そう言えば、昨日の朝もちょっと頭が重かったような気がする。しかし、間抜けな声・・・

ごそごそと下着姿の瑞穂さんが、クローゼットに頭を入れているのが見える。あっ、瑞穂さんだけ下着つけてる・・・いつの間に。

あぁ・・・あそこには下着も入れてるのになぁ・・・そう思うと、熱以外の理由で顔が赤くなってきてしまう。

そういえば、下着はベッドの上で脱いだような・・・布団の中を手足で探ると、脱ぎ捨てたままに小さく丸まっているパンティが見つかった。

「これですよね?」

そう言って、瑞穂さんがパジャマを手渡してくれた。それを布団の中に引っ張り込むと、モゾモゾと身体をくねらせながら、身につけて行く。結構、難しいですわね・・・

私がパジャマをベッドの中で着終わる頃には、瑞穂さんも出かけるときの格好になっていた。

「朝食・・・食べれますか?」

瑞穂さんが、心配そうに顔を覗き込んで、たずねてくださる。正直・・・ちょっと欲しくありません。

軽く咳き込み、左右に首を振って見せる。

「でも、食べないと薬も飲めませんから。おかゆでも作ってきますね」

瑞穂さんはいつも優しい・・・こういうときの優しさは普段以上に心に染み渡るような気がする。

小さく頷く私の顔を見て、瑞穂さんはにこりと微笑んで、「じゃぁ、待っててください」といって、部屋を後にした。

その後姿を見送り、私は身体を少しだけ動かし、瑞穂さんが寝ていたあたりに移動した。瑞穂さんの暖かさと香がまだ少し残っているような気がする。しばし、風邪の辛さも忘れ、それに包まれる幸せをかみ締めていた・・・のもつかの間でした。

「あの・・・貴子さん、土鍋、どこでしたっけ?」

「どばべでしたら、なばしのうべのだなでふ」

「あの・・・軽量カップは?」

「なばしのよこ・・・しょっぎがごのなば」

「あの・・・お塩は?」

「かぶんだーのうえのぢょうみりょういれ・・・」

「あの・・・おこめ」

「じぶんでづくりまぶ・・・」

ご自分の家なんですから、調味料とか食器とかの位置くらい覚えてください。お願いですから・・・

まあ・・・ここに転がり込んでからずっと、瑞穂さんに料理をさせなかった私も悪いのですが。

ケホケホとセキをしながら、キッチンに立つ。・・・頭が重い・・・心なしか、寒気もする。

土鍋にお湯を入れ、ボケッとそれが沸騰するのを待つ。あっ、蒸気が気持ちいい。

横で瑞穂さんが申し訳なさそうな顔をして、焼きたてのパンをかじっている。流石にトースターの場所と食パンの場所くらいはご存知でしたのね・・・って、やけに意地悪な考えが頭に浮かぶ。

出来上がったおかゆをテーブルの上にもって行き、瑞穂さんの正面に腰を下ろす。

「あの、大丈夫ですか?授業とバイト、僕も休みましょうか?」

私が椅子に座るのを待ち、瑞穂さんがそう言ってくださったが、そんな事は絶対に良くない。

「らいりょうぶれふ。ねてひゃらなおりまふ」

梅干を入れたおかゆをスプーンで食べながら、その申し出だけはかたくなに辞退した。

「それじゃ、できるだけ急いで帰ってきますから、寝ててくださいね」

普段なら一緒に出かける瑞穂さんを、玄関でお送りするのはなんだか新鮮な気分。とは言っても、起き上がってうろうろしてた所為か、朝起きたときよりも体調は確実に悪くなっているみたい。

足元がかなりふらふらする。瑞穂さんが出かけたら、とっとと寝ちゃおう。

と、その瞬間、ふわりと瑞穂さんの手が私の頬をなで、唇に瑞穂さんの唇が軽く重なる。ふみゃ・・・溶けちゃう・・・

「行って来ます、貴子さん」

「はひ・・いってらっひゃい・・・」

熱以外の理由でくらくらし始めた頭と身体を引きずるように、寝室に戻り、熱以外の理由でドキドキと鼓動を高める心臓を押さえ込むようにして、ベッドにもぐりこんだ。

しばらくは眠れなくて、ベッドの上でごろごろしていたが、1時間ほどすると、食後に飲んだ薬に含まれていた睡眠薬が効き始め、私はいつの間にか眠りに落ちてしまった。

  

「た~か~こ♪」

「ふみゃ・・・」

やけに神経を逆なでする声で叩き起こされたのは、お昼の時間が過ぎ、おやつの時間が近づく頃。。

「風邪で寝込んだんだって?けんぶ・・・じゃなくて、見舞いに来て上げたわよ」

今、見物って言いかけましたわね?絶対に。

「どうして?」

まだ重い頭をベッドの上で起こしながら、やけに嬉しそうなまりやさんにたずねる。

「瑞穂ちゃんが、自分は遅くなるから、あんたに憑いててって連絡してきたのよ」

字が違う・・・

「じんせんがわりゅすぎ・・・」

「瑞穂ちゃんが頼れる女の子なんて、恵泉の頃の友達以外にいる訳ないじゃない。それとも何?他に心当たりがあったり、心当たりのない女の子を呼ばれるほうが良かった?」

言われてみればそうなのだが・・・

「・・・しほんざまとか、びゅかりさんとかかばちゃんとか・・・」

「あんた、声が面白事になってるわね。奏ちゃんが『かばちゃん』になってるわよ。何処かの振付師?」

からかいに来たんなら帰れ、の言葉を飲み込み、布団を頭から引っかぶる。

「紫苑さまもアルバイト、寮組の二人を呼び出せる訳ないでしょ。ところで、お昼は?」

だったら、誰も呼んでくれない方が良かったのに・・・風邪を悪化させにきやがりましたか?貴女は。

「ほしくありみゃへん」

布団から少しだけ顔を出し、やけに嬉しそうな顔をしているまりやさんに答える。この顔は絶対にろくでもないことを考えている顔ですわね。

「駄目よ~ちゃんと食べて、薬も飲まなきゃ」

声もやけに弾んでる、どう見ても、心配しているようには見えない。

「いりゃないれふ。かえってくらひゃってけっこうれふ」

今、まりやさんの玩具にされたら、冗談抜きで命にかかわるような気がする。

「最近のコンビニは凄いわね。電子レンジで作れるおかゆって言うのもあるのよ。今、作ってきてあげるから」

人の話を聞け。それと、恵泉の卒業生なら、おかゆくらい自分で作ってください。

寝室から出て行ったまりやさんが、プラスティック製のどんぶりに入ったおかゆを持って帰ってきたのは、それから10分ほど経ってからだった。

本当に最近のコンビニは凄いですわね・・・こんな物まで売ってるとは。

しかし、そのどんぶりとスプーンが私に与えられる事はなく、代わりに嬉しそうな顔をしたまりやさんが、おかゆをすくったスプーンを私の顔の前に持ってきた。

「はい、あーーん♪」

そ・・・そう来ますか・・・

「ほらぁ、た・か・こ、アーン♪」

「じぶんでたべれまふ!ごほん!ごほん!」

思わず大きな声を出してしまい、盛大に咳き込んでしまった。ついでに鼻水も・・・。枕元においていたティッシュに手を伸ばし、それをふき取って、ゴミ箱に投げ込む。午前中にも鼻を何度かかんだので、ゴミ箱には他にもいくつか同じように丸められたティッシュが入っている。

「アレを覚えたての男子中学生の部屋のゴミ箱みたいになってるわね」

視線が投げ込まれたティッシュを追って、ゴミ箱へと行き着いたまりやさんがそう言う。

「アレ?」

「ますたーべ・・・」

「いわにゃくてけっこうれふ!!げふん!ごほん!!」

何を言い出そうとしますか!?この方は!

「駄目よ、貴子。興奮しちゃ」

誰が興奮させてるんですか・・・あぁ、熱が上がりそう。

「とりあえず、はい、アーン」

まだ、覚えてましたか・・・

  

結局、まりやさんの「あーん」でカップおかゆを食べてしまった。あまり美味しくない。お茶漬けみたいな食感でしたわ。

敗北感を噛み締めながら、風邪薬を3錠口に放り込み、水で流し込んだ。

「ぼう、かえってくれてけっこうでふ」

食事だって食べたし、薬だって飲んだんだから、一刻も早く帰って欲しい。

「やっぱり、風邪の時はこれよね、これ」

そう言って、彼女は嬉しそうな顔で濡れたタオルと水の入った洗面器を持ってきた。

それだけは止めてください、お願いですから、勘弁してください。しかし、口でそれを言った所で聞き入れられない事は判りきっている。

だから、口で答える代わりに、布団を強く握って頭からかぶる事にした。

「駄目よ、貴子、汗かいてるんだから。汗臭いままで瑞穂ちゃんを出迎えたくないでしょ?」

「おおきにゃおせれふ、かえってくらはい!げふん、ごほっ!」

熱が上がる、絶対風邪が悪化する、これ以上玩具にされたら、本気で命にかかわりますって。あぁ、大声出しすぎ、喉の痛みがさらに酷くなってきた。

「まあまあ、けちけちせずに、たまには幼馴染にもその柔肌の一つくらい見せなさいって」

都合のいいときだけ、幼馴染にならないでください。ぎゅっと掛け布団を握って、亀の子のように丸くなって抵抗する私。その私から布団を引っぺがそうとする自称幼馴染。

しかし、熱もそれなりに出ている私の力では、元陸上部の体力勝てるわけもなく、あっさりと布団は奪われてしまった・・・

「無駄な抵抗だったわね、貴子」

着ていたパジャマも手際よく脱がされ、おとなしく私は彼女に背中を拭かれることになった。うう・・・屈辱、それに恥ずかしい。

「せにゃかだけでやめてくらひゃい。ごほん・・・ごほん」

と言う私の最後の願いも聞き入れられず、全身、くまなく拭かれてしまった・・・お嫁にいけない。

「太もものところ、キスマークがあったわよ。貴子」

本当にお嫁にいけない。

  

「ただいま、買ってきたわよ」

本当にたっぷりと汗をかいていたようで、私が着ていたパジャマと下着はぐっしょりと汗で濡れていた。

下着は替えが何枚かあるが、パジャマは家から持ってきた1枚しかないので、まりやさんが近くのお店で買ってきてくれた。

他にも熱冷ましの冷却シートや、喉スプレーなどもついでに買ってきてくれたはず。

「はい、パジャマ」

裸のままの胸に布団を押し付けるような格好で、身体を起こし、紙袋に入っているパジャマ・・・いつから、レースたっぷりでスケスケのパープルのベビードール(しかも同色同素材のガーターベルト付きストッキングも同梱)をパジャマというようになったんだろう?

それを目の前まで持ち上げ、しばし思考が停止してしまった。

「・・・・・・・・・」

「・・・反応、薄いわよ」

「・・・・・・・・・(ギロッ!)」

「3万も身銭を切ったギャグなのに・・・」

非常に不満げな顔をして、まりやさんはもう一つの紙袋を私に手渡した。その中には、普通の綿のパジャマが入っていた。病人で遊ぶのはいい加減止めて欲しい。それと、人生にオチは必要ありませんから。

「やっぱり、着ぐるみの方がウケたかな・・・」

もう一度、まりやさんの顔をにらみつけた後、よろよろと立ち上がり、パジャマを身につける。

「あっ、貴子、シーツ交換しちゃうから、そのままちょっと待ってて」

一応、看病に来ている事は忘れてなかったみたいですわね・・・では、その間にお手洗いに行ってきましょう。

足取りは多少ふらつくが、それでも薬が効いたのか、今朝よりかはずいぶんと足取りもしっかりしている。

まりやさんの看病のおかげでないことだけは間違いないと思いますが・・・

ついでに水を一杯飲んで、寝室に帰ると、ベッドには真新しいシーツが掛けられていた。まりやさんは床においているテーブルの前に座って、テレビを見ている。時間は6時を少し回っている。

「かえりゃないのれふか?」

まだ、かなりの鼻声と言うか、冗談のような声になっている・・・さっき喉スプレーを使ったときは多少マシになったような気がしたのに・・・

まりやさんの答えを聞く前に、ベッドの中に滑り込み、真新しいシーツの肌触りを存分に楽しんだ。

「それじゃ、晩御飯に何か作って帰るわ。何が食べたいの?」

「たべられるもの・・・」

「それじゃ、私の作るものが食べられないみたいじゃないのよ」

まあ、恵泉の家庭科の授業は一応信用できる内容だとは思ってますけど・・・

「おじやでいいれふ・・・」

正直、まだ、食欲はほとんどわかない。本当は冷たいゼリー位だけでいいんですけど・・・

まりやさんが寝室から出て行ったのを見て、私はまた布団を深くかぶった。

  

どうやらそのまま、私は寝てしまったようで、起きた時にはまりやさんは居なかった。

テーブルの上には『いつ起きるか判らないので、先に帰るわ。おじやは適当に暖めて食べて。それと、冷蔵庫にゼリーを入れておいたから。まりや』と書いた置手紙がおいてあった。

温めなおしたおじやは、意外と美味しく、食欲がないと思っていたのに、全て綺麗に食べ切ることが出来た。

一応・・・感謝しないといけないかもしれませんわね。腑に落ちない部分もたっぷりとあるのですが。

なお、後で気が付いたのだが、先ほどの置手紙の裏には『明日も遊びに来るからね』と書かれていた。

いっ、一刻でも早く直さなければ!

  

それから数日後、まりやさんにたっぷりとからかわれながら、看病していただいた結果、私の風邪も綺麗さっぱり治り、そして・・・

「げほっ・・・ごほっ・・・きゃえれ、貴子・・・」

「あら、幼馴染が看病に来て差し上げたのに、その態度はよくありませんわよ?まりやさん」

闇金融並の利子をつけて、看病して差し上げますわよ。

(おしまい)