貴子視点。貴子ED後。貴子家出済み。「海に行こう!」と時間的な矛盾がありますが、「ぷっ、計画性のない奴」と思って笑い飛ばしておいてください。本当にありませんから、計画性
それと、貴子と瑞穂のやってるバイトって何なんでしょうね・・・書いてる本人にもわかりません。
先日まで寒い寒いと思っていたのに、あっと言う間に明日からは大型連休、そろそろ日中は暑くなってきた。
そんなある日、大学の授業が終わり、自販機でジュースでも飲もうと購買部の前にやってくると、一人のクラスメートが私に声をかけてきた。
「ねえねえ、鏑木君と同棲し始めたって、本当?」
ガン!おっ、思わず自販機に頭から突っ込んでしまった。結構痛い。
「だっ、誰に聞いたのですか!?」
「リアクション、大きいわね・・・やっぱり、事実なんだ?」
いや、それは良いから。良くはありませんが・・・
「えっと・・・ほら、あそこで見知らぬ女性が言いふらしてるわよ」
彼女が指差した先には・・・御門まりやが居やがった(怒)
「あっ、貴子、遅いじゃないの~何してたの?」
「それより、貴女こそ!何でこんな所に来たんですか!!」
とりあえず、彼女の手を無理矢理握り、カフェテラスへと引っ張ってきた。今すぐこの方をどうにかしないと、明日の今頃には私には3人位の子供がいる事になっているに違いない。
「何でって・・・車」
私はここから10キロも離れた所にある恵泉の大学部に通っているはずのまりやさんが、どうして私の通っている大学で、私と瑞穂さんの噂話を広めて歩いてるか?と聞いてるんです。と、言いたいが、もはや、怒りで言葉にはならない。
簡単に今の心情を説明するなら、目の前に居る女の首にロープを掛けて、両端を力一杯引っ張ったら、どんなに気持ち良いだろう?と言う感じである。さくっと刺殺でも可!
周りを軽く見てみたが、絞殺にちょうどいいロープも刺殺に手ごろなナイフも見当たらない。
「いやねぇ~ちょっとした冗談じゃないの」
目に付く所にロープやナイフがなくてよかったですわ。殺人犯にならずに済みましたから。
「今日の授業は昼までだったから、ちょっとGWの予定を聞きに来ただけよ。瑞穂ちゃんは?」
暴走しかける思考を落ち着かせるために、大きく深呼吸をしてみる。はぁぁぁぁぁぁ・・・あっ、これは溜息ですわね。
「瑞穂さんなら図書館ですけど、それより!なんで、私と瑞穂さんの話を広めてるんですか!」
「あぁ、それは話の流れと言うか、ついでと言うか・・・良いじゃない、どうせ、四六時中ベタベタしてて、暇があれば瑞穂ちゃんちに入り浸ってるのは周知の事実だったわよ」
そんなにベタベタしているつもりは・・・つもりはなくても、そう思われる心当たりはあったりして・・・
「まっ、いいわ。図書館に居るんなら、そっちに行くから。後、GW、特に予定ないんでしょ?」
「瑞穂さんとまだ相談はしてませんけど・・・」
夕方からはアルバイトがありますわ、の言葉を続けようとした時には、まりやさんの姿はカフェの中から消え去っていた。
そして、私は10人以上の友人に取り囲まれ、「瑞穂さんとの同棲の真相」を根掘り葉掘り聞き出される事になった。
ばれないように細心の注意を払っていましたのに・・・orz
アルバイトが終わるのは10時を少し回る頃、同じ頃に同じようにバイトが終わる瑞穂さんと待ち合わせをして、帰宅するのが日課になっている。
東京の夜はこの時間でも明るく、夜道を歩くのもあまり苦にはならないが、空が小さく、星はほとんど見えない。
「あはは、大変でしたね」
昼の出来事を人事のように笑う瑞穂さんの顔を、頬を膨らませて見つめる。
「他人事の様に笑ってますけど・・・瑞穂さんだって、次に学校に行けば、同じ目にあいますわよ」
「まあ、男と女は違いますし、次に大学に行くのは10日以上先ですから」
苦笑い気味の笑みをこぼしながらも、あまり困っている様子のない表情を見てると、なんとなく腹が立ってくる。
私のほうは、もはや、大学内部の顔見知りには全て伝わっている勢いなのに・・・
「瑞穂さんは女装ミスキャンパスとして有名人なんですから」
「それは誰の所為ですか?」
さぁ、誰のせいでしたかしら?あの時の写真ではずいぶんと儲けさせていただきましたわ。
鏑木の家のある高級住宅地に入ると、ネオンや24時間営業の店の明かりは少なくなり、変わりに街灯と住宅からこぼれる窓の明かりが落ち着いた光で足元を照らし始めた。
一人で歩いていたら、ちょっと心細くなる道なのかも知れない。
「まりや、次は何をするつもりなんだろう・・・」
どうやら、GWに何かやらかすような雰囲気でしたが・・・騒ぐのなら、私の目に入らないところでやっていただきたい。
「GWの予定はどうします?」
大学生バイトの休みは、やはり地方出身者の里帰りが優先される為、地元在住で実家に帰る気など1mmもない私は、休みを取るどころか、休むほかのバイト仲間の分まで働かされそうな勢い。
「バイトはあまり休めそうにないです。GWのデートは日帰りだけになりそうですね。行きたい所があったら教えてくださいね」
「別にデートの催促をしたわけではありませんわ」
赤くなる顔を両手で押さえながら、プイッと顔を背けると、見慣れた鏑木の家が見え始めた。あれ・・・
「電気がついてますわね」
その言葉に瑞穂さんもそちらを向く。
「あぁ、確かについてますね。父が帰ってきてるのでしょう」
家の鍵は出る前に確認したし、警備会社との契約もあるので、泥棒と言う事はまずないでしょう。
今週は帰ってこないとおっしゃっていたと思いますが・・・
「お邪魔してるわよぉん」
私達の「ただいま」の声に返事をしたのは、予想していた男性の声ではなかった。
「なっなっなっ・・・」
「まりや・・・」
居間の入り口で絶句して立ち尽くす二人。それをビール片手に楽しげに見上げているまりやさん。もう、驚くだけ無駄と言うか、怒っても意味がないというか・・・
二人仲良く「はぁ」と大きな溜息をついて、まりやさんの両隣に座る。どちらが主でどちらが客なのやら。
「何のようなの?まりや」
「うん、GWにここでパーティするから、会場の予約。それに瑞穂ちゃん12日が誕生日でしょ?ちょっと早いけど、GWなら寮組の二人も呼べるしね。」
パーティ開催はすでに決定事項のようだ。しかも、ここで。って、誕生日?聞いてませんわよ
「高校も卒業して、誕生日もないと思いますけど・・・」
視線を瑞穂さんに移すと、軽く苦笑いをしていた。そういえば・・・
「私、誕生日、何も頂きませんでしたわね・・・」
と、小さくつぶやくと、場の空気が(主に瑞穂さんのあたりだけ)凍りついた。
「あっ、別に催促とかしているわけではありませんし、忘れ去れて居たどころか、知られても居なかった事を根に持ってたりはしてませんから」
ええ、全然、そう言う事は思っていません・・・思ってませんってば。
『えっと・・・まりや、貴子さんの誕生日っていつ?』
『11月、瑞穂ちゃん、知らなかったの?』
『恵泉に居た時の11月はまだ貴子さんとお付き合いしてませんでしたし』
『あの顔はかなり怒ってるわよ・・・』
ぼそぼそとまりやさんと瑞穂さんが顔を見合わせて、話をしていることは全部丸聞こえ。だから、別に怒ってませんってば。
ええ、もう、全然、怒ってませんから。・・・本当ですよ?
「あの・・・今年は忘れませんから」
今、知った人が「忘れません」と言うのはどうかと思いますが・・・まっ、去年の5月は私も何もしませんでしたし・・・知りませんでしたし。
「他の3人にはすでに連絡つけてるから。3日は夕方から空けておいてね」
何で、会場を押さえるのが一番最後になるのでしょうね・・・第一・・・
「僕ら、3日の夜はアルバイトで帰ってくるのはこの時間だよ」
と、言う事です。瑞穂さんの言葉に合わせて、私も首を上下に大きく振る。
「あっ、別にいいわよ。鍵なら持ってるから」
何で持っているのか・・・なんて考えても仕方ないんでしょうね。
「『まりやだから』、で納得するのが一番楽ですよ」
そんなので納得してたまりますか!
「ところで、まりや・・・今夜、どうするつもり?」
「あぁ、ビール飲んじゃったし、ソファーででも寝るわ」
歓迎してなくても、犬猿の仲でも、天敵だとしても、一応、客の範疇に入る方をそんな所で寝かせられますか。
客じゃなきゃ、庭の桜の木の下で寝かせる所ですが。
泊まると言い出すだろうな、とは思っていたので、驚きはない。まっ、家出してここに転がり込んでる私に言う権利はあまりないような気がしますわね。
「客間の布団、干してませんわよ・・・」
「悪いわね、貴子。あっ、明日、暇?暇なら、皆で瑞穂ちゃんへのプレゼントを買いに行くんだけど、付き合わない?」
立ち上がりかけた身体を少し止めて、明日の予定を思い起こす。やるべき課題もなかったし、アルバイトは夕方から。瑞穂さんとの約束も特になし・・・どうせ、プレゼントの買い物には行かなきゃならないし・・・
「良いですわよ」
「プレゼントとか、別にいりませんよ?」
「良いの、良いの。こういうのは気持ちなんだから」
「そうですわね・・・たまにはこういうのもいいと思いますわよ」
二人の言葉に軽く苦笑するも、瑞穂さんはそれ以上は遠慮の言葉を言わず、変わりに少し嬉しそうに微笑んだ。
「んじゃ、お昼も一緒に食べる約束してるから、10時には起きてね」
ハイハイ、と軽く返事をして客間へと向かう。
そして、お風呂に入って、やけに忙しかった一日がようやく終わった。普段の倍は疲れた・・・さっさと寝てしましょう。
明日はまりやさんと一緒に時間が長いのだから、今日以上に疲れるはず。
寝室のベッドには先にお風呂に入った瑞穂さんが、寝巻きを着て寝転がっていた。私はいつものようにその隣にもぐりこんで、瑞穂さんの腕を枕にする。
「顔が疲れてますね」
「判りますか?もう、まりやさんと一緒に居ると、無駄に疲れてしまって・・・」
「なれると、楽しいですよ」
「なれる前に、過労で倒れてしまいます」
かなり慣れては来ましたけど・・・朱に交われば赤くなる、と言う奴なのかもしれない。今はピンク色くらいですわね
電気を消した薄暗いベッドの上で、鼻がこすれあうほどの距離まで引っ付いて、二人で顔を見合わせ、クスクスと笑う。
「それじゃ、おやすみなさい」
「お休み、貴子さん」
枕もとの電気を消して、静かに目を閉じる。
その頃の隣の客間。
ICレコーダーと聴診器を構えたまりやが舌打ちをしていた。
「ちっ」
(おしまい)
GWが終わるまでに完結すると良いなぁ・・・と、希望的観測をしたりして(w