貴子視点。前回までのダイナミックなアラスジ。貴子ちゃんとまりやちゃんと紫苑ちゃんは、プレゼントの予算で自分の服を買っちゃいましたさ。愛されてないな・・・瑞穂ちゃん。

4月30日(土曜日)

「で・・・瑞穂ちゃんの様子は?」

「無邪気に凄く喜んでます」

  

<回想>

「明日のプレゼントって何ですか?」

やけにニコニコしている瑞穂さん。

「もっもちろん、それはヒミツですわ。当日のお楽しみです」

「誕生日に、女性から何かを貰って言うのは初めてなんですよ」

ごめんなさい、貴方へのプレゼントの予算は、サマーセーターに化けてしまいました・・・

ちなみに紫苑さまは白いワンピース、まりやさんはシルクのブラウス。

と、言う事は口が裂けてもいえない。

今にも鼻歌を歌いだしそうな瑞穂さんの背中を、私は黙って見送るしかなかった。

</回想>

  

プレゼントの予算で服を買いこんでしまったお馬鹿さん三人組が、善後策を相談する為にまりやさんのお宅に集まっている。

「それでは、『貴子さんをプレゼント』計画は気まずいですわね」

「由佳里たちはかなり気合が入ってるみたいよ」

「学園祭の時のお菓子も非常に美味しかったですわよ」

並んで座っている紫苑さまとまりやさんのやり取りを正面に見ながら、すっかり氷が解けて薄くなったアイスティをスプーンでかき混ぜながら、私は軽く溜息をついた。

「そんなに美味しいのでしたら、私も食べに行けばよかったですわ」

あの時は劇の事で頭が一杯で、学園祭を楽しむ余裕なんて全くなかった。それでなくても、イベント時の生徒会の忙しさは半端じゃないのですから。

由佳里さんと奏さんのお二人は、手分けしてケーキだけではなく、数種類の焼き菓子も前日から作り始めるそうだ。

二人の気合が入る一つの理由に「私達が1つずつ立派な紙袋を抱えていた」と言うのもある。

もちろん、彼女達二人はその中身が「自分の夏物の服」と言う事は知らない。

彼女たちから見れば、「私たちが気合を入れて、瑞穂さんのためにプレゼントを用意した」としか思えないわけで・・・

「と、なると、貴子の頭にリボンをつけてって言うのは、かなり寒い事になるわね」

「何か他にやらないと、先輩としての面目がありませんわね」

「先立つ物がないと、どうしようもありませんけど・・・」

ふぅと、軽く溜息をつく三人。9時過ぎに集まって、2時間、何度目か判らないほど同じようなやり取りを繰り返している。

「貴子が駄目なら紫苑さ・・・ごめん、私が悪かったから、泣きそうな顔で無言でにらみつけるのは止めて」

察してくれて嬉しいです。

「あら、残念ですわ」

泣きますよ、本気で。

とりあえず、3人ともいくらかのお金は調達してきている。昨日に比べて三分の一以下まで減ってますが・・・

3人ともこれを使い切っちゃうと、しばらく生活がかなりわびしい物になる・・・5月、まだ始まってないのに・・・

「さて、何にしようか・・・」

紅茶を飲み干し、スナック菓子に手を伸ばしながら、まりやさんが口を開いた。お金がないといくら言った所で、お金が天から降ってくるわけはなく、いきなりお金を稼げる術もない。

今ある予算で、どれだけ見栄えのいいものが買えるのか、ついでに瑞穂さんが喜ぶ物が良い・・・と言う非常に都合の良い事を話し合う必要がある。

「お金がないのでしたら、やはり、手作りと言う手段に訴えるのもありではないでしょうか?」

「3日後ですよ?今から何を作るんですか・・・」

「しかも、お菓子の類は由佳里さんと奏さんが作りますからね」

「そうですね・・・」

裁縫の類も恵泉の家庭科でもやるにはやったが、3日でどうにかなるほどの事は教えてもらっては居ない。まあ、瑞穂さんの誕生日当日には間に合うかもしれませんが。

「でも、安い服なんかにワンポイント入れると、心がこもってそうに見えるわよ?」

『心がこもってそうに見える』と言うあたりに今の心情が見え隠れするまりやさんの提案。もはや、見せる相手は、瑞穂さんではなく、後輩二人組。先輩として負けられない戦いなのである。

・・・一方的に宣戦布告して、一方的に敗戦を実感するだけになりそうですが。

「刺繍などですか?小さな物なら、いくつか作った事がありますよ」

「ちなみに、私は一切出来ないわよ。自慢じゃないけど」

本当に自慢ではない。私は恵泉の実習で1回作りました。出来は可もなく不可もなく・・・持っていても恥ずかしくはないが、持ち歩こうとは思わないという微妙な出来でしたわね。

「あまり、名案と言う訳ではなさそうですね」

下手すると、安物がさらに安物に見える諸刃の剣ですからね、それは。と、言うわけで、この案はひとまず保留。

「仕方ないわね・・・お金を増やそう!」

まりやさんが大きく息を吐いて、そう宣言した。

「どうやってですか?」

紫苑さまがそうたずねる。短期的にお金が稼げる手段など、合法的にはほとんどない。援助交際とか言うのは死んでも嫌ですし。

「お馬ちゃんよ!天皇賞よ!5月1日の!」

あぁ、そんなことだろうと思いましたわ・・・紫苑さまと私は顔を見合わせ、力一杯溜息をついた。

「三連単なら万馬券も夢じゃないのよ!?100円が1万円よ?」

一人で盛り上がってるまりやさんを放置して、私と紫苑さまの二人で相談を続ける。

「やっぱり、買える物に気持ちを込めるのが一番ですね」

「そういえば、最近、瑞穂さん、携帯電話を時計代わりにしてますから、腕時計が良いのではないのでしょうか?」

「今の予算でも、高級ブランドでなければ、それなりの物が買えますね」

少しずつ、話が前に向いて進み始める。やっぱり、まりやさんは役立たずですわね。

「たかこぉ・・・相手にしてよ」

「ごめんなさい、相槌を打つことすら面倒でしたの」

情けない顔をして、すがりつくのはお止しなさいって。

  

そう言うわけで、瑞穂さんへのプレゼントは腕時計ということにめでたく決定した。まあ、今の予算では後輩二人組のお菓子に勝ち目は皆無なのですが・・・

ふっ、プレゼントに勝ったも負けたもありませんわ・・・2年前のバレンタインデーと言ってる事が違うって?成長したと思ってください。お願いします。

「腕時計って言うと、やっぱり時計屋さんですか?」

「あぁ、駄目ですよ、紫苑さま。そんな所のは高いんですから」

無視された悲しみから回復したまりやさんが、大げさに顔の前で手を振って見せる。立ち直りの早い人。

「じゃぁ、どこで買いますの?」

「ホームセンターか量販店。すっごく安いので良いんなら、コンビニって言うのもアリ」

コンビニの腕時計って、玩具みたい物じゃないですか?

「どちらにしても、歩いていける範囲にはありませんね」

紫苑さま、さらっとおっしゃいましたけど、それって・・・

「んじゃ、車出すわ」

ほら、やっぱり、まりや車になるじゃありませんか・・・レールのないジェットコースターは嫌なのに・・・

「ねえ、どうして、二人とも後部座席に行くのかな?」

気にしないでください。

  

あっと言う間に命の危機をたっぷりと感じるドライブが終わって、ちょっと郊外にある大きめのホームセンターに到着。

ホームセンターと言う所に来るのは初めてですが、ずいぶんと大きなお店ですわね。よく見る家電製品から、見たことも使い方もわからない工具らしき物まで、様々な者がおいてある。

「ずいぶんときょろきょろしてますけど、こういうお店は初めてですか?貴子さん」

「ええ・・・紫苑さまは?」

「ここはお花の苗や肥料もありますから、時々来てますわよ。庭の手入れは任されてますから」

確かに、遠くに『種苗』と書かれたプレートが見える。一度だけお邪魔した事がありますが、あのお庭を一人でお手入れしているとは、流石ですわね。

「大変じゃないのですか?」

「あら、なれると楽しいですわよ。四季それぞれのお花のお手入れをするのは」

「貴子、紫苑さま、こんな所でウィンドショッピングなんて始めないでね」

一足先に腕時計の売り場に行ったまりやさんが、私達に声をかける。私達はハイハイと返事をしてそちらに向かった。

色々な腕時計が、ガラスケースの中で時間を刻んでいるのを、まりやさんがしゃがみこんで覗いている。

「この右端の奴がいいと思うんだけど・・・」

私達が入り口で話をしている間に、まりやさんはすでにめぼしをつけていたのか、一つの時計を指差した。

合成皮革の細いバンドに、アナログの小さな文字盤がついている。シンプルでありきたりではあるが、逆に飽きが来ない良いデザインでありますが・・・

「これ、思いっきり婦人物ですわよ?」

「でも、瑞穂さんの腕に紳士物の時計は・・・」

言われてみれば、そのとおりなんですけどね。

「私の見立てに間違いないって。プロにも負けないわよ」

まりやさんは自信たっぷりに胸をそらして、さっさと店員を呼んでしまった。確かに、ここにあるものの中で、予算の範囲で収まる者の中では、一番よさそうだとは思いますけど。もう少し、あれこれ悩んでも良いような・・・

「お金」

店員さんと話していたまりやさんが、こちらに向いて、シンプル且つ無慈悲な言葉を発し、右手を差し出す。

「露骨過ぎますわよ・・・」

ハンドバッグから財布を取り出し、言われた金額を差し出す。あら・・・結構、残りましたわね。

「思ってたよりも安いのですね」

同じようにお金を払った紫苑さまが、私の気持ちを代弁してくれた。

「その辺の見立てもばっちりよ」

受け取ったお金をひとまず財布に片付けながら、まりやさんが軽く笑って見せた。

「それじゃぁ、支払ってくるわ」

GWと言う事もあって、それなりに人の並ぶレジへ向かうまりやさんを見送る。

「私、少し、お花の種を見てきます」

こういうところに一人で居てもすることはないので、紫苑さまの後を付いて歩いていると、「手芸」と書かれたプレートが目に付いた。へぇ・・・こういうのも置いてあるのですね。

棚にはボタンやら糸やら、色々な物が並んでいる。その中に『初めてでも出来る刺繍』と書かれたセットがおかれていた。

『お金がなければ、手作りと言う手段も・・・』と言う紫苑さまの言葉が思い出される。

値段は・・・まあ、それなりですわね。買えなくも・・・ない。買えば、来月は赤貧ですけど。

中身は針や糸、手引書のような物や、方眼紙状になった布まで付いている。これなら、私にも出来ますわね。

3日のパーティにはとても間に合わないが、12日の誕生日当日には間に合うかもしれない。

どれが良いでしょうか・・・猫、犬、風景画のような物、有名な絵画をモチーフにしたものまである。

あれこれと色々悩んだ結果、子猫が二匹じゃれあっているデザインのセットを取り上げた。二匹の猫が私と瑞穂さん・・・

「た・か・こ・♪」

うっ!?

「貴子さんもあのようなお顔をなさるのですね」

紫苑さままで・・・

ガシッと私の肩にまりやさんの腕がまきつく。離してぇ!

「裏切りは良くないわよね?」

「そうですわね・・・よくありませんよ」

紫苑さまも私の手をぎゅっと握り締める。

「まあ、恋人なんだから、個人でプレゼント、と言う気持ちを理解しないでもない」

仰々しい口調でまりやさんが言う。離してって・・・

「ええ、恋人ですから、そう言うのも当然です」

「まっ、リボンで許してあげるわよ」

「折角、リボンも買ったことですし」

かくして、やっぱり、私は3日に頭にリボンをつけて、プレゼントされる事になった。恥ずかしくて死んでしまうかもしれない。

(おしまい)