貴子復活(w 前回の投げっぱなしなアラスジ。酔っ払い女は怖い(ぉ
ふわぁ・・・良く寝ましたわ。今は・・・っと、そろそろアルバイトに行かなくては。今日は一緒に働いてる専門学校の生徒さんがお休みなので、早めに出勤する必要がありましたわね。
愛用のハンドバッグに携帯電話を入れて、動きやすい格好に着替えて・・・
「なに逃げようとしているんですか?貴子さん」
何ですか?その捨てられそうになってる子犬のような表情は・・・萌えますわね、何気に。
「逃げるなんて、人聞きの悪い。私は私の責務を果たすだけですわ」
「あぁ~貴子お姉さまぁ~」
見ないようにしていた庭の一角から、由佳里さんの声が上がった、ので、ついそちらを見てしまいました。
数え切れないほどの空き缶と空き瓶、その中央に転がる花も恥らう乙女が4人、と、それを疲れ果てた顔で見守る瑞穂さん。
傍目には乙女が5人に見えなくもない。
それは、晩春の庭を照らす夕日とあいまって、非常にシュール。こんなのに素面の人間が足を踏み入れたら確実に死ねます。
「瑞穂さんだって、アルバイトがおありなのでしょう?」
逃げるのでしたら、ご一緒に・・・
「これをおいて出かけられると思いますか?」
もはや「これ」扱いの4人組、見るたびに頭の芯がズキンと痛む。逃げましょう、地の果てまで。
「だいじょーぶ、二人が帰ってくるまでに二次会の用意をしておくから」
「そうそう、ケーキとお菓子も沢山ありますよ~」
陸上部コンビが酒瓶を握り締めたまま、けらけらと笑っている・・・やっぱり、まりや病は陸上部の風土病ですわね。
「後の事は安心して任せるのですよ」
「庭も片付けておきますわ」
すっごく安心できないんですけど。紫苑さまも足元がふらついてるし、奏さんは顔が真っ赤だし。
ところでこの量を5人だか4人だかで空けたんですか?ありえない量を飲んでませんか?皆さん。
「僕を数に入れるのは止めてください。ほとんど飲んでないんですから」
瑞穂さんは哀れなほどに憔悴しきっている。まあ・・・このテンションの女性4人を相手にするのは大変でしたでしょうね。
「んじゃぁ、バイトに出撃する二人を万歳三唱で送り出しましょう!」
私ら二人は今から戦地にでも行くんですか?むしろ戦場はここですわね。紫苑さままでまりやさんと一緒に控えめな万歳をしている・・・あぁ、憧れのお姉さまが崩れて行く・・・
猛烈に嫌な予感を感じながら、私達二人はそれぞれのバイト先に向かった。帰りたくない。
見られてまずい物(ベッドの下の明るい家族計画とか、使用済みのそれの入ってるゴミ袋とか)は全て処分してきたはず。
帰りたくないのに、一刻も早く帰らないとまずいことが起こりそうな気がする。全然、バイトの仕事が手に付かない・・・
で、あっと言う間にバイトは終了。待ち合わせ場所でそわそわしている瑞穂さんと合流後、全力疾走で帰宅する。
「かっ、帰るの・・・止めませんか?」
「帰らなきゃ・・・帰るまで酒盛りしてますよ、あの4人」
しかし、たった4時間程度であの4人のお酒が抜けてるわけもなく、あのハイテンションの4人の下に素面で突入するのは無謀としかいえない。
「あっ、お帰り~」
家に帰ると、下着姿のまりやさんが出迎えてくれた・・・他の3人も似たような格好。どっ、どこから突っ込めば良いのか・・・
「みんな・・・そんなカッコウしてたら風邪を引くよ」
瑞穂さん、突っ込みどころはそこですか?そこなんですか?時々、自分でも自分が男なのを忘れてるでしょ?!
「庭の片づけをしていたら、汗をかいてしまって・・・」
おそらくは由佳里さんの淹れたであろう紅茶にブランデーを注いで飲んでいる紫苑さま。あの・・・その場合、ブランデーと紅茶の割合が逆のような気がするんですけど。
「せめて、Tシャツとスカートくらい着てください。男性も居るんですから・・・」
「「「「えっ、どこに?」」」」
4人で合唱しないで・・・貴子ちゃん泣いちゃう。あっ、瑞穂さんが本気で泣いてる。
飲まなきゃやってられませんわね・・・
また、倒れて寝たりしないようにビールを中心にマイペースで飲み続ける。もっとも、初めて飲むのですから、ペースも何も知ったことじゃありませんけど。
何か重大な事を忘れているような気がするが、忘れてしまうような事なのですから、大した事ではないのでしょう。
「それじゃぁ、めでたく20歳になった瑞穂ちゃんにプレゼントを上げちゃおう!」
高々とまりやさんが宣言する。そう言えば、このパーティの名目は一応、瑞穂さんの誕生日を祝うって事になってましたね。もはや、ただの酒盛り以外の何物でもありませんが。それと、正確に言うなら、まだ、瑞穂さんは19歳のままです。
「お菓子は私達が作りました」
「作ったのですよ~」
6人で片付けるには多すぎるほどのお菓子、生菓子から先に食べないと、痛んでしまいそうですわね。
「凄い量だね、食べきれるかな?」
生クリームたっぷりのショートケーキに手をつける。甘さも控えめで、もう少し飾りを豪華にすれば商品として売れそう。味は下手なお菓子屋さんなど、足元にも及ばないかもしれない。
「で、これが私と紫苑さまと貴子からのプレゼント。腕時計」
なぜに、まりやさんが渡すのですか?そういえば・・・あの時、まりやさんがお会計に行って・・・刺繍のセットを選んでるのを見られて・・・そのまま、帰ったんだから、まりやさんがずっと持ってたってわけですか、あの腕時計。
悔しい・・・猛烈に悔しい。特にまりやさんがチラッとこちらを向いて、投げかけたあの勝ち誇った笑みが許せない・・・
「では、貴子さん、こちらへ・・・」
へっ?紫苑さまが私の腕をつかんで、ずるずると隣の部屋に引きずって行く・・・病弱だって言う設定はどこに消えましたか?
「ンじゃぁ、ユカリンと奏ちゃん、場を持たせててね」
「はーい」
「はいなのですよ」
飲み屋のママとお姉さん方みたいな会話は止めなさい。
「さて、はじめようか?」
「ええ、はじめましょう」
と、まりやさんが取り出したのは、あの白いレースのカーテン。忘れていたのは、大事な事じゃないからじゃなくて、思い出したくもないから忘れていただけでしたのね。
「ちょっと待ってください、3人でよく話し合いましょう」
「問答無用」
「正座してくださいね」
いや、許して・・・レースの達磨は嫌。ジタバタと暴れる私を、二人が取り押さえる。
「貴子・・・ここに集まってるみんな、瑞穂ちゃんが好きだったのよ?」
「そんな皆さんを飛び越え、瑞穂さんの胸に貴女は飛び込んでいったのです」
まりやさん・・・紫苑さま・・・しんみりとした空気がその場を支配する。
「でも、皆、瑞穂ちゃんとあんたの事、祝福してるんだから・・・」
「皆さん、貴女と瑞穂さんが幸せになることを望んでいるのですから・・・」
お二人の表情が何処か寂しげで・・・私はそれ以上の抵抗が出来なくなってしまって・・・・
「「だから」」
ところで、何で、そんなに寂しげな表情なのに、やけに手際よくレースで私を包んで行くのですか?
「「恥くらいかいてこんかーーーい!!!」」
「この酔っ払い、騙しましたわね!紫苑さまに至っては、二回目ですわよっ!?」
勢い良く障子が開かれ、背後から蹴り飛ばされた私@白いレースのだるまがコロコロ~っとパーティ会場に転がり込む。
談笑していた3人の視線が集中する・・・視線が痛い。数秒の沈黙がリビングに舞い降りる。そして・・・
「あははははははははは、芋虫!!白いレースで栗毛の芋虫!!!!」
指差して爆笑するな、ユカリン。それと、笑い方、まりやさんそっくりだから。
そっかぁ・・・あの時は座ってたからだるまに見えたけど、転がされると芋虫に見えるのですね。
「由佳里ちゃん、笑うと・・・貴子さんに・・・悪い・・・のです・・・よ」
喋れないほどに笑いを堪えてくれてありがとうございます、奏さん。
「えっと・・・あの・・・」
瑞穂さんはあわてて視線をそらしてしまった。直視すると噴出しそうなのでしょう?ええ、判ってますとも。
「ハイハイ、笑うのはいいから、その辺の物どけてね~」
「はぁい、芋虫さんが転がりますよ~」
紫苑さまとまりやさんに転がされ、瑞穂さんの元へと連れて行かれる。
由佳里さんと奏さんも的確に瑞穂さんへの道を作らないでください。
「はい、瑞穂ちゃん、これが私らのプレゼントだから」
「返品は不可ですわよ」
まりやさん、紫苑さま・・・
「全く・・・紫苑さんまで・・・大丈夫ですか?貴子さん」
少しだけ苦笑いをした瑞穂さんの手によって、レースの包み紙を止めるリボンが外され、少しお酒臭い彼の胸に優しく抱き寄せられる。
二人の後輩達の祝福の拍手が起きる。そして、照れくさそうに笑う悪友の笑みと、それを見守ってくれる憧れの先輩・・・
それを愛する人の胸に抱かれて見上げていたら、胸が熱くなってきて・・・熱く・・・何かがこみ上げてきて・・・
「・・・吐きそう・・・」
「うわっ、貴子さん、ちょっと、待って!」
お酒を飲んで転がされたら、当然、こうなりますわね・・・瑞穂さんの胸に大きなもんじゃ焼きの元が出来た。
(おしまい)
いやぁ~今回も良く苛めた