貴子視点 「第一次誕生日の悲劇」って事は、「第二次」「第三次」もあるんだろうか?
AM1:05
T女史もんじゃ制作(←前回のオチ)
AM1:15
M氏、シャワーを浴びて出てくる。M氏の湯上り姿に萌え狂う酔っ払い4人、嫉妬に暴走するT女史、自棄酒を始める。
AM1:30
鏑木家のアルコールほぼ売り切れる。唯一合法的に酒を購入できるS女史、コンビニ補給基地への物資補給へ。M氏同行。T女史、やっぱり嫉妬に狂って自棄酒。それを煽るM女史。
AM1:49
補給部隊帰還。その補給量は前日に消費された量とほぼ同じであったという。三次会突入
AM2:06
Y女史とK女史、アカペラでデュエット。アカペラカラオケ大会開始。
AM2:55まで
アカペラによる合唱が続く。M氏、周辺民家のへ被害拡大を憂う。
AM3:00前後
K家のトイレ、すっぱい香が充満し始める。M女史爆睡。
AM3:08
T女史発案による「M女史の顔に落書きしちゃおう」オペレーション発動。
AM3:14
同オペレーションにS女史参戦
AM3:39
同オペレーションにY女史、K女史参戦、オペレーションの作戦範囲、両手両足にまで広がる。M氏、リビング隅で現実逃避。
AM4:23
M女史起床。しかし、自らの体に刻まれた忌まわしい戦渦に気づく事はない。
AM4:25
その戦渦を見たM氏、思わず爆笑。M女史、自らの戦禍に気づく。
AM4:26
M女史暴走。Y女史、K女史両名、その一撃でダウン。
AM4:31
M女史VST女史の一騎打ち、S女史、それを観戦。M氏、やっぱりリビングの隅で現実逃避
AM4:49
永遠に続くかと思われたM女史VST女史の一騎打ち、しかし、両者、アルコールが回りすぎてダウン。S女史、ちょっと不満げ。M氏、夢の世界に逃避。
AM5:00
最後まで生存を続けたS女史、戸締りを確認後、K女史を抱き枕に就寝。
なお、この一連の動乱は後に「第一次誕生日の悲劇」と呼ばれる事になる。
(なお、当人のプライバシー保護の為、名前は伏せさせていただく)
頭が痛い、とんでもなく痛い・・・いわゆる、二日酔いという奴ですわね、これは・・・。
リビングに3人の眠り姫(一人は男性ですが)が眠り腐海の森が出来上がっている。
二日酔いに痛む頭を動かすと、キッチンで紫苑さまが朝食の準備をしていらっしゃる・・・って、今何時ですか?1時・・・PM。朝食ではなく、昼食ですわね。
「おはようございます、貴子さん」
「おはようございます・・・紫苑さま・・・」
普段どおりの美しい立ち振る舞いで、手際よく食事を作って行く。一番飲んでたはずなのに・・・ありえない。ちなみに私は一歩歩くたびに頭の中で鐘がなってるような感じになってしまう。
「あぁ、申し訳ありません、お一人で用意させてしまって・・・」
正直、包丁を持って普通に料理できる自信は全くありませんが・・・指、切り飛ばしてしまいそう。
「いえいえ、皆さん、気持ちよさそうに寝てましたから」
あぁ、お玉を持って微笑む紫苑さま・・・可愛い・・・
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません」
・・・お玉を口元に持って行って首をひねるなんて事を、素でやって許されるのは世界で貴女だけです。
「起きたのでしたら、ほかの方も起こして下さいますか?」
ほかの方・・・あれ、腐海の森の眠り姫(一人男性ですって)は3人しかいなかったような・・・
「まりやさんでしたら、シャワーを浴びてますよ」
「誰かさん達に体中落書きされたからね」
噂をすれば影とばかりに、ブラとショーツというあられもない姿で、ガシガシとバスタオルで頭を拭きながら、キッチンに入ってくる。
「それは大変でしたわね」
シレッとした顔で答える私。顔と両手足だけですわよ・・・それでもちょっとやり過ぎましたわね。
「だぁれのせいだ!」
あっ・・・怒鳴り声が頭に響く・・・思わず頭を抱えてしゃがみこんでしまったら、正面でまりやさんも頭を抱えてしゃがみこんでる。
「大声を出すのは止めてください」
「そ・・・そうね、お互いの為ね」
ぐわぁんぐわぁんと鐘のなる頭を抱えて、腐海の森に足を踏み入れる。誰が片付けるんですか?これ。そこに、いっしょにまりやさんも来て・・・
「待ちなさい!服を着なさい!服を!!」
・・・また、頭を抱え込んでしゃがむ二人。
「大声は反則だって」
「ごめんなさい・・・」
3人を出来るだけ静かに起こして、キッチンに集合。普段は二人だけの食卓に6人並ぶと壮観ですわね。しかし、紫苑さまを除いた5人の箸は進まない。全員二日酔いで死んでるから。
「あら、お口にあいませんか?」
紫苑さまは極々普通に食べている。
十分に美味しいです。ですが・・・
「流石に・・・頭が痛くて・・・」
何倍も水だけをお代わりし続ける瑞穂さんが、申し訳なさそうにそう言う。水を何杯も飲んでいるのは他の4人も一緒。
「それはいわゆる・・・二日酔いという物ですか?」
紫苑さまはお箸を唇に当て、興味深げにこちらを見つめる。
「私、いくら飲んでも二日酔いという物にはなったことがありませんの」
そう言って熱い番茶で喉を潤すと、軽く一息ついて・・・
「昨夜の1.5倍くらいまででしたら大丈夫ですわよ」
「「「「「どういう体してるんですか!?」」」」」
全員がそう叫んで、全員が頭を抱えた。痛い、頭が割れそう。
さて・・・これ、どうしましょうかね?
何とか朝食を取り終え、腐海の入り口にたたずむ。その先には荒涼と広がる十二畳の、過去にはリビングとも呼ばれていた、腐海が広がっている。
「さてと・・・片付けますか・・・」
「がんばれぇ~」
他人事のように言うまりやさんの頭を一発はたく。まりやさんは二日酔いの頭を前後に揺らされ悶絶している。
「今日中に片付けないと、私と瑞穂さんの二人で片付ける事になるでしょう!」
あっ、ちょっと大声出してしまいましたわね、頭の中で自分の声が反響してますわ。
「すごい事になってますね・・・」
「6人でやればすぐに終わるのですよ」
「私は先に食事の後片付けをしますわね」
瑞穂さんが数枚のゴミ袋を用意して、祭の後片付けが始まった。
「この辺の分別はどうなってるのですか?」
「そんなの適当にぶち込んどけばばれやしないわよ」
まりやさんが、奏さんの質問に適当に答え、本当に缶も紙もビニール袋も一緒のゴミ袋に捨てようとしている。
そのまりやさんの頭を後ろからはたき倒そうとした手が空を切る。そして、まりやさんの右手が私の額にカウンターに入る。いっ、痛い、二日酔いの頭を前後に揺らさないで。
「空き缶と空き瓶、それとペットボトルは一緒で。ビニールの包み紙とかは資源ごみ、それと可燃ごみは判るよね。埋め立てゴミはないと思うから・・・っと、可燃ごみだけは区役所指定のゴミ袋に入れてくださいね。聞いてる?まりや」
「はいはい、面倒だわね」
頭を抱え込んでる恋人の横で、冷静に解説しないで下さい、瑞穂さん。
同じ手は二度は通用しませんわね・・・と思いながら、空き缶をゴミ袋に放り込んで行く。しかし、いくら捨てても捨ててもゴミが減ったような気がしない。
ところで・・・
「まりやさん、由佳里さん、押入れはあける必要ないと思いますけど?」
片付けもしないで何をやってるんですか?
「ほら・・・見つかったじゃないですか、お姉さま・・・」
「あはは、ちょーっと、鏑木夫妻の秘密を暴こうかと・・・」
お尻を突き出して、押入れの中に頭を入れている二人をたったままで見下ろす。なんかもう、その格好が情けなさ過ぎて、怒るというより呆れてしまいますわね、これは。
「そんな所に秘密も何もありません」
寝室ならともかく・・・と言うのはトップシークレット。口走らないように気をつけないと。
「でも、面白い物はあったわよ。これ」
四つんばいになったままズルズルと中から、本のような物の詰まった小さな段ボール箱を引っ張り出してきた。
その様子に瑞穂さんや奏さんも集まってきて、興味深げにまりやさんがそれを開くのを見守った。掃除が中断してまう・・・
「どうしたのですか?」
食事の片づけを終わらせた紫苑さままでがそこにやってくれば、掃除はなし崩し的に中断。終わらないじゃないですか。
「じゃーん、アルバムでした♪」
ダンボール箱の中にはずいぶんと古そうなアルバムが10冊ほど入っている。でも、古い割には埃が積もってませんわね。定期的に誰かがあけてたみたい。
「あぁ、それ、母様のアルバムだよ。帰ってくるたびに父が見てますから」
気持ちは判らなくもないですが・・・帰ってくるたびは多すぎ。
まりやさんがアルバムの一冊を開く。どうやら、高校生当時の写真のようです。すなわち恵泉時代と言うことですわね。
「制服は変わってないみたいですね。あら、瑞穂さんそっくり」
身につけていたエプロンを外した紫苑さまがそう言う。本当に親子と言うよりは、ほとんど姉妹と言っていいほどにそっくりの顔、そっくりのいでたち。
「2-3枚瑞穂ちゃんの写真を混ぜてもばれないわね、こりゃ」
「そっ、そんな事ある訳ないじゃない・・・まりや」
『そんな事あると思う』
全員がそう思った。
「そんな事ないのですよ。バックに映ってる校舎が新しいのですよ」
奏さんのフォローになってないフォロー。と言うか・・・とどめですわね、今のは。
「フォローありがとう・・・奏ちゃん」
奈落の底まで突き落とされた瑞穂さんを尻目に、アルバム鑑賞は進んで行く。
入学式、体育祭、文化祭、修学旅行、学園生活折々のイベントでの写真が収められている。
「しかし、本当に校舎が新しいですね」
「寮もずいぶんと新しいですね。うらやましい・・・」
紫苑さまの言葉に、寮住まいで寮が古いのは切実な問題の由佳里さんが答える。数回しかお邪魔してませんが、実際、ずいぶんと古い建物でしたわね。床などはずいぶんときしんでましたし。
「先日、ついに由佳里ちゃんが階段を踏み抜いたのですよ」
「わっ!奏ちゃん、それは寮の外には漏らさない約束だったのに!」
由佳里さんは奏さんの口を押さえようとしたが、時すでに遅く、秘密はあっさりと暴露されてしまった。
「踊り場の所でしょう?誰かが踏み抜くと思ってたのよねぇ・・・」
「僕もあそこは通る時に気をつけてたんですよ」
寮生活を経験した先輩二人がそう続ける。
「私だって、気をつけていたんですよぉ・・・でも、寝過ごしちゃって・・・」
早朝練習を寝過ごし、あわてていた時に踏み抜いてしまったらしい。想像すると・・・笑ってしまいますわ。
ちなみに、そのときは早朝練習どころか、授業までも遅刻してしまったそうだ。急がば回れ、ですわね。
「あぁぁぁぁ、一子ちゃんだ!」
まりやさんの声で、写真を覗き込んで見れると、それには、一子さんは明るい色のワンピースを着て、瑞穂さんのお母様の隣でピースサインをしている。それより、まだ、二日酔いが続いてるんですから、あまり大声は出さないで下さい。
「生きてる一子ちゃんですね」
瑞穂さんも横から覗き込んでくる。ちょっと狭いですわ。
「わぁ、浮かんでない一子さんを見るのはちょっと感動なのですよ」
「本当、私服だし」
なんと言うか・・・微妙に友達がいのない発言ですわね、由佳里さんと奏さん。
「ここから先の写真、どれにも一子さんが映ってますわね・・・」
私はぺらぺらとアルバムをめくりながら、そうつぶやいた。
「なんだか、子犬と飼い主みたいですね」
そのつぶやきに紫苑さまが返事をして、さらにページをめくって行くと、それまで頻繁に登場していた一子さんがぱったりとしなくなってしまった。
「もしかして・・・このあたりで死んじゃったの・・・かな」
私服姿の瑞穂さんのお母様と一子さんが初夏の寮の前で、仲良く並んで写ってる最後の写真。それをまりやさんが指差した。
ある写真を境に急にその人の居ない写真ばかりになる。人が死ぬと言うのはこういうことなのかもしれない。
気のせいなのかもしれませんが、一子さんの居なくなった後の写真に写る瑞穂さんのお母様の表情は笑ってはいても、その笑みは何処か暗いように見えた。
「さてと・・・それじゃ、そろそろ帰るわ」
アルバムを見ているうちに時間は夕方近くなってきていた。まりやさんがそう言うと他の3人もテーブルから立ち上がった。
「それじゃ、玄関まで送りますよ」
私も瑞穂さんも立ち上がり、玄関まで帰る4人を送っていった。二人だけには慣れているはずの大きなお屋敷、でも、今日は普段以上に寂しく感じる。
「今度は瑞穂さんの子供の頃のアルバムが見てみたいですわ」
「そんなに面白い物じゃありませんよ」
その寂しさを紛らわせるように話をしながら、リビングに戻ると・・・
規模を半分にした 腐 海 がまだ残っていた・・・
にっ・・・逃げましたわね・・・
(おしまいです)