貴子視点 「GWの過ごし方」はこれでおしまいです。本当は6日7日8日もゴールデンウィークなんだけど、流石にネタがないっす。まりやの誕生日SSは当日に間に合わせたいなぁ・・・

GWの過ごし方(5月13日瑞穂の誕生日+1日)

見事に未完成の刺繍を見下ろし、私は途方にくれていた。3日のパーティに間に合わないのは判りきっていたのですが・・・

本日は5月12日、言わずと知れた瑞穂さんの誕生日。ただいまの時間11時55分、もちろんPM。後5分で瑞穂さんの誕生日は終わってしまう。

「貴子さん、お風呂開きましたよ・・・あれ、今夜も刺繍ですか?貴子さんって本当に刺繍が好きなんですね」

お風呂から上がった瑞穂さんが長い髪をドライヤーで乾かしながら、そう言ってきた。ドライヤーは髪が痛みますわよ。

大っ嫌いですわよ、刺繍なんて。二度と始めようなんてたわけた事は考えませんわ、これが終わったら!

心の中で出来上がっていない刺繍を罵倒した所で妖精さんか小人さんが出てきて刺繍をしてくれるわけはない。手を動かさなければ、白い部分が減って行くわけはない。どう考えても後5分で終わるはずはありませんが、傷は小さい方がいいですわよね・・・

言い訳をさせてもらえば、サボっていたわけではない。瑞穂さんも「今夜も」とおっしゃっていたとおり、毎晩遅くまでやっているのです。

ただ、手芸同好会の方に聞いてみたところ、このサイズは慣れてる人が毎日2時間やって半月程度、慣れてなきゃ、1ヶ月は掛かるという代物らしい。もちろん、私は後者。・・・何を考えてこんな事をしようと思ったのでしょうか?私は。

それでもほぼ毎晩徹夜に近いペースでやったおかげで、おそらくは後3時間程度で完成するはず。

とりあえず、先にお風呂を頂きましょうか・・・ぬるくなる前に入らないと・・・。

お風呂から上がると、カレンダーは5月13日に変わっていた。

  

お風呂上り、パジャマを着てテーブルの前でチクタクと針を動かし白い布に色とりどりの刺繍を施して行く。

その様子を横で瑞穂さんがぼんやりと見ている。結構視線が気になりますわね・・・

「貴子さん、まだ、寝ないのですか?」

「ええ・・・」

顔も上げずに返事をする。今夜中に完成させたいですからね。理由を言えないあたりが辛い所。

お気に入りのクラシックだけをBGMにして、さらにチクタクと縫い針と時計の針が動き続け、1時間が過ぎた。

そばに居てくださるの嬉しいのですが、こう言うのを見てて飽きないのでしょうか?瑞穂さんは・・・正直、やってる本人はかなり飽きてます。

「あまり根を詰めると体に毒ですよ」

少し心配したような・・・というのでもありませんわね。なんだか、微妙な口調ですわね。

「お疲れでしたら、瑞穂さんはお先寝てくださって結構ですわよ」

軽く顔を上げ、ぽんぽんと肩を叩く。はぁ・・・かなりこってますわね・・・

「ええ・・・ああ・・・まあ・・・疲れているわけではないのですが・・・」

奥歯に物が挟まっているような物言いですね。チラッとそちらに顔を向けると、何処か赤い顔をしてそっぽを向かれてしまった。

「そうですか・・・」

また、俯いてチクチクと針を布に突き刺して行く。後3時間では無理ですかねぇ・・・ここ数日の平均睡眠時間、2時間を切ってるんですけど。

「えっと・・・あの・・・その・・・先に・・・寝ますよ?」

「ええ・・・どうぞ」

今度は顔を上げずに答える。

「・・・寝ますよ?」

寝るならさっさと寝てくださいって・・・と、顔を上げると、やっぱり、何処か赤い顔をして、そっぽを向く・・・

ああ・・・えっと・・・うーんっと・・・・・・まあ・・・その・・・そういう事ですか・・・

いわゆる、「求められている」という奴ですか・・・この前「シタ」のはゴールデンウィーク前の話ですからね・・・

私も、刺繍がなければ、シテ頂きたい所ですが・・・というか、むしろ、ぜひともしたいというか・・・可愛がって欲しいというか・・・可愛がってあげたいというか・・・少しくらいなら・・・・はっ!今、思いっきりしてもらうつもりになってましたわっ!

駄目です!今夜中にこれを仕上げてしまうんですから!寂しく一人で寝てください!!

  

で、2時間後

・・・シテしまった。流されるままに、3回もイッてしまった・・・あまつさえ、上に乗って自分で腰を使っていたような気がしないでもない。

求められると嫌な気がしない心と始めると限度を知らない若い体が憎い。仕方ないですわよね?お互い若いんですし、同棲なんかしてるんですからっ!?不可抗力ですわよねっ?!

と、見えない陪審員に弁解した所でどうにかなるわけでもないわけですし・・・あぁ、腰が痛い。

眠りに落ちそうな意識を必死で繋ぎとめ、瑞穂さんが寝てしまうまで一緒にベッドに居て、ズルズルと這う様にベッドが下りたら、時計は3時を大幅に回っていた。

って、2時間のつもりが3時間弱はしてるじゃないですか!徹夜かなぁ・・・明日の1限目からなのに・・・

寝ている瑞穂さんの邪魔にならないように、隣の部屋へ移動する事にした。ついでに思いっきり苦いコーヒーでも淹れましょう。カフェインは緑茶の方が強いんでしたっけ?

普段の1.5倍は濃い目のブラックコーヒーと、ポータブルステレオを用意して刺繍を再開する。ヘッドホンのボリュームは全開。

しかし・・・ブラックのコーヒーというのは苦いですわね・・・普段からブラックを飲んでる瑞穂さんの味覚が信じられない。

やっぱり、ミルクくらい入れたほうが良かったかも・・・でも、いまさら取りに行くのも時間の無駄ですわね・・・

思いっきりアレを楽しんでしまった体は、頭に「もう寝よう、今すぐ寝よう」という信号を送り続ける。それをコーヒーの力を借りた意志の力でねじ伏せながら、一針一針目を増やして行く。

手芸同好会の方がやっていた物に比べると、図案自体はずいぶんと簡単なのですが、なにぶん慣れていないので、時々目を間違えたり、それに気づかずに進めてしまったりする所為で、進みはずいぶんと遅い。

1つ間違えて進めてると、全部やり直し、という事があるので油断ならない。

今夜中に済まして、明日の朝食の時にでも渡せば、遅れは1日だけで済む。あぁ、枕元に置いておくと言うのも悪くはないですわね。

・・・サンタクロース?サンタクロースもこういう苦労をしてるんでしょうかね・・・サンタクロースに夜の営みを求めてくる恋人が居るとは思えませんが・・・

くだらない事を考えないで、頑張ろう!私!犯っちまった物は仕方がないのです!

  

新聞屋さんのバイクの音が聞こえる頃、最後の一目が終わった・・・出来た・・・眠気と、肩と腰の痛みに耐えてよく頑張った!と、少し古い言葉を自分に掛けてあげたい。でも、自分を褒めてあげる前に寝たい。

もう限界、一秒たりとも起きていられません。おやすみなさい・・・

  

「貴子さん!貴子さん!」

ふみゃぁ・・・あっ、コーヒーの良い香がしますわ・・・瑞穂さんが入れてくれたのでしょうか?

「何でこんな所で寝てるんですか?」

何で・・・?こんな所・・・?あぁ・・・刺繍刺繍・・・瑞穂さんの誕生日プレゼント・・・この刺繍は瑞穂さんの誕生日プレゼントでしたのよ?気が付いてない朴念仁様も居ましたが・・・

伝えたい事はたくさんありますが、寝起きで頭が動かない・・・とりあえず、手渡しましょう。1秒でも早く手渡したい。

半分寝ぼけた目で、ぺたぺたとテーブルの上においてあったはずの刺繍を探す。ビチャ・・・

ビチャ?嫌な物音と指先の感触に、一気に頭が覚醒して行く。

「あぁ・・・コーヒーまでこぼしちゃって・・・雑巾、取ってきますね」

パタパタとスリッパの音を立てて、瑞穂さんが部屋から出て行くの呆然と見送り、視線をテーブルに落とす。

コーヒーの洪水になっているテーブル、コーヒーカップを叩き倒した際に付いたと思われる右手のコーヒー。そして、当然のようにコーヒー漬けになっている私の血と汗と睡眠時間の結晶。

「クリーニング屋さんに行ってきます!」

コーヒーだらけになったそれと、財布をひったくり、外に飛び出す私。瑞穂さんが何か言ったような気がしますが、聞いてる余裕はない。

『9時開店』

燦然と輝く看板、ただいまの時間、8時。しかも、私・・・パジャマとスリッパ。・・・馬鹿?

  

翌日

土曜日の夕方、ようやく刺繍が帰ってきた。はぁ・・・2日遅れですか・・・それでも差し上げないよりはずーっとマシですわよね、と、自分で自分に慰めておく。

「これ・・・遅くなりましたけど、私からの誕生日プレゼントです」

夕食の後、素朴な額に収められた刺繍をおずおずと差し出す。

「あっ・・・ありがとうございます。綺麗な刺繍ですね・・・本当に僕のプレゼントだったんですね・・・」

「本当に?」

「あっ・・・いえ・・・そうだったら良いな・・・って思ってましたから」

少し恥ずかしそうに、そして、それ以上に嬉しそうに指先で頬をかいた。

「少しは気が付いていたんですね」

思っていたよりかは朴念仁ではなかったようですわね・・・って、そう思っていらしたのでしたら、求めたりしないで欲しかった。答えた私も私ですが。

「でも、無理をしてまで仕上げないで下さってもよかったんですよ。貴子さんからのプレゼントでしたら、いつ貰っても嬉しいですから」

気が付いてる事を私が知ったら、プレッシャーになると思って、気が付いてない振りをしていてくださったのかもしれませんわね。

いまさら、確かめる術はありませんけど・・・

「あまり目立たない所に飾ってくださいね。恥ずかしいですから」

「そうですか?立派な物だと思いますよ」

瑞穂さんは、それを両手で持って、何度も離して見たり、近くで見たりを繰り返している。

「でしたら、目立つ所に飾っても恥ずかしくないのが出来たら、これと交換しますね」

「もう!瑞穂さんは時々意地悪です!」

「あはは、貴子さんが可愛いからですよ。でも、本当にありがとうございました。大事にしますね」

テーブル越しに交わされる二人の口づけを、一つの額の中で寄り添う二匹の猫だけが見ていた。

(おしまい)