貴子ED後、貴子視点。過去の「海に行こう!」シリーズは必読。読んだからといって楽しめるかどうかは知らない(ぉぃぉぃ
夜空に大輪の華が咲き、僅かに遅れてドーンという音が聞こえる。
それを砂浜に出したテーブルの前に座ってみている私たち7人(一子さんは座ってませんが)。
瑞穂さんと一子さん以外の5人は色鮮やかな浴衣を身に着けている。
まりやさんの「折角だから」と言う言葉に従ったのだが、何が「折角」なのかは私にはわかりません。
「ちょっと迫力に足りないわねぇ・・・」
奏さん手製のトロピカルジュースを飲みながら、まりやさんが贅沢を言い出す。
「そうですか?私は人ごみが苦手ですから、こういう風に見るほうが好きですわね」
紫苑さまがまりやさんに答える。紫苑さまのトロピカルジュースは少しだけアルコール入り。実はお酒が御好きなのかしら?
「スイカが切れましたよ」
由佳里さんが初日にフルーツの器になったスイカの片割れを切って、お盆に載せて持ってきた。
他の5人が口々にお礼を言って、スイカを手に取り口をつける。5日も放置してた割には美味しい。
しかし、スイカの汁が浴衣に飛ばないように食べるのは、ちょっと気を使う。
いよいよ明日は東京に帰る。あっという間の一週間だった。これだけ遊びほうけたのは初めてかもしれない。
日に焼けて少しひりひりする肌が夜の浜風に気持ちいい・・・この風を感じられるのも今日が最後。
「遠い大きな花火よりも、近くの小さな花火よね♪」
納得出来るんだか出来ないんだかよく判らない理論を言い出し、まりやさんがどこにあったのかわからない大量の花火を持ってくる。
「凄い量だね・・・まりや」
「本当ですね。線香花火から大型の打ち上げ花火、爆竹までありますよ」
荷物運びに狩り出された瑞穂さんと由佳里さんがあきれ返った声を出している。
「あれもこれもって思って買ってるうちに、膨れ上がっちゃって」
笑って誤魔化すまりやさん。計画性があるんだかないんだか・・・
「まりやさん、これは最後にしましょうね」
大量の花火の中から、特に大きな打ち上げ花火を指差している一子さんがそう言った。
「最後は線香花火でしょう」
いくつかの手持ち花火をキープした紫苑さまがニコニコと笑って、まりやさんの代わりに答えた。
「確かに礼儀と言いましょうが、作法と言いましょうか、そういうものとしては花火のしめは線香花火以外にないと私も思ってはいるのですが、今日は打ち上げ花火でしめたいと思いますので、ぜひとも最後はこの大きな花火にして欲しいのです」
そこまで言うのなら・・・と言う事で、一子さんの希望が聞き入れられた。別に、線香花火を最後にしなきゃいけないって言うわけでもありませんし。
出来るだけ平らそうな岩の上にろうそくを立て、バケツに水を汲んで用意は終了。この旅行最後のイベントはこうして始まった。
パパパパパパン!!連続した破裂音が響く。
「いきなり爆竹を投げないでください!」
まりやさんが投げた爆竹が、足元で破裂した由佳里さんが悲鳴と抗議の声を上げる。
「走って逃げると、裾が危ないですよ」
紫苑さまが楽しそうに笑いながら、爆竹から逃げている由佳里さんに教えると、由佳里さんを赤らめて浴衣の裾に手をやった。
横で気まずそうな顔をしている瑞穂さんの太ももを軽くねじり上げておく。
「そんなに近くに投げてないわよ」
また、爆竹の束に火をつけながら、まりやさんが大げさすぎとでも言いたそうな声で答えた。
初っ端から爆竹を手に持つあたりがまりやさんらしい。どうせ次はロケット花火でしょう。
「お姉さま、これに火をつけて欲しいのですよ」
奏さんが、一子さんが選んだものとは違う打ち上げ花火を選んで、瑞穂さんに手渡す。
「良いですよ、少し離れてくださいね」
瑞穂さんが火をつけると、火の玉が音を立て夜空に舞い上がり、心地よい破裂音とともに小柄な華を咲かせた。
「たまや~」
怪我の心配のない一子さんは、ぱらぱらと降り注ぐ火の粉のすぐ下にまで近づき、それを手で受け止めるような仕草をしている。
「うふふ、少し幽霊さんがうらやましくなりますわね。まるで真夏の雪のようですわ」
手に持つタイプの花火で夜空に円を描いていた紫苑さまが、一子さんの様子をまぶしそうに見つめていた。
「生きてる人がやると、火傷してしまいますわね」
「では、生きてる人は生きてる人にしか楽しめない花火を楽しみましょう」
そう言って花火を一つ手渡し、その先端に火をつけてくれた。赤い火花がパチパチと弾けながら砂を焼く。
「お姉さま、もっと、打ち上げてください!」
瑞穂さんが新しい花火に火をつけるたびに、その周りでダンスを踊っている。様々な花火に火がともり、火の粉が舞い降り、それに照らし出された一子さんが踊る。
それは私たちの目を惹きつけるに余りあるほどに美しく、幻想的で、そして儚い。
「一子さん、綺麗なのです・・・」
奏さんが全員の気持ちを代弁するようにつぶやいた・・・いつしか、私たちは手に持つ花火に火をつけることも忘れ、ただ、一子さんの踊りを見つめ続けていた。
「あっ、もう、打ち上げ花火は最後ですよ」
火をつけていた瑞穂さんがそう宣言する。手に持つ花火はいくつも残っているが、打ち上げ花火は、一子さんが選んだ一番大きなものしか残っていない。
「それじゃ、もう、終わりにしましょうか?」
上げ終わった花火のゴミを大きな袋一杯に詰め込んでいた由佳里さんが提案した。一子さんのダンスを見てしまったら、手持ちの花火やロケット花火は少し物足りないような気がする。
対岸の花火も終わってしまっている所を見ると、時間も頃合なのかもしれませんね。明日も早いですし・・・
最後の花火に瑞穂さんが火をつける。それは数回の打ち上げを繰り返すタイプ。
「そうですね、これで・・・おしまいです」
相変わらず花火の真下に立っている一子さんが静かに宣言した。
「私はあちらに帰ります。里帰りは終わりです」
静かだが、言葉を挟めない雰囲気がそこにあった。私たちはそんな一子さんを先ほどまでと同じように見つめる事しか出来ない。
「東京までついて行ったら、一子は帰りたくなくってしまいますから。ここでお別れします」
誰もが何かを言いたがっている、しかし、誰も何も言う事が見つけられない。
「この何日か、凄く楽しかったです。貴子さんや紫苑さんとお会いできたのも嬉しかったです」
そういう彼女の体が音もなく薄らいでいく。
最後の火の華が宙で開き、その最後の一片が砂の上で消えると、彼女の姿もそこにはなかった。静かに涙を流す6人だけを残して・・・
『お姉さまとお幸せに・・・』
そんな声が聞こえたような気がした。他の人たちにもそれぞれ違う声が聞こえたそうだ。それがどんな言葉だったかは教えあわない。多分、自分の胸の中にだけしまいこんでいればいいものだと思ったから。
お盆よりも早くこの世に帰ってきた優しい幽霊は、お盆の直前にあちらに帰ってしまった。
こうして、夏の旅行は終わった。来る時と同じ道のりを、同じだけの時間をかけて東京まで帰ったはずなのに、帰り道はやけにあっけなく着いてしまったような気がする。
帰ってから、私たち6人は一子さんのお墓に参った。その墓碑には小さく一子さんの命日が、あの旅の最終日である事が書かれていた。
(おしまい)
終わった終わった、やっと終わった・・・
とりあえず、何とか終わりまで書けてよかった・・・