貴子ED、卒業式直後、瑞穂視点
卒業式も終わり、寮からの引越しも済んだ3月の下旬。
恵泉学園の気の早い桜たちとは違い、庭の桜はようやくつぼみを膨らませた程度。
「何が見えるのですか?」
卒業式から毎日のように家に来ている貴子さんが横から声をかけてくる。
「もうすぐ花見の季節ですね」
僕の言葉に「ええ」とだけ彼女は答え、早春の風にその栗色の髪をなびかせ、同じ早春の景色を眺めていた。
ずっとこうして同じ風景だけを見つめていたい、そう思わせるに十分な横顔。
「あら、郵便ですわね」
家の前に一台の赤いバイクがとまったのが見えた。
「あぁ、そういえば、大学の書類が届く頃ですから・・・」
僕は窓枠に軽く手を突いて立ち上がった。
「取ってきますよ。ついでですから、何か飲み物持ってくるよ。何が良い?」
「でしたら、私がお飲み物を用意しますから、瑞穂さんは郵便を取ってきてください」
勝手知ったる他人の家、ですか?と軽く苦笑するも、素直にその好意には甘える事にした。
僕はアイスティを貴子さんに頼むと、階段をとんとんと下りて、ポストに入れられた茶封筒を手に取った。
確かに僕が合格した大学の名前が書かれている。
「うそぉ!!!!」
茶封筒の中身を見て、僕は思わず大声を上げてしまった。その直後、キッチンからガシャーンという大きな音が聞こえた。
キッチンから貴子さんが顔を出して
「急に大声を出さないでください。グラスを割ってしまいましたわ。」
と、僕に抗議をするけど、僕はそれ所ではない。
「瑞穂さん?」
目の前で貴子さんの白い手のひらがひらひらと揺れ、それが僕の額をぺとっと触ってたりする。
ピラッと彼女が、固まったままの僕の手から用紙を取り上げる。
「この紙がどうかしましたか?あぁ、大学からのお知らせですわね?驚くような事はどこにも書いていないと思いますが・・・」
その声で僕はほんの少しだけ正気に返り、一番下、小さく書かれている部分を指差す。
『女子用』
そして、茶封筒に書かれている宛名も指を指す。
『宮小路瑞穂様』
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
広い屋敷に二つ目の叫び声がこだました。
「と・・・とりあえず、どういうことか考えて見ましょう」
先に復活したのは貴子さん。多分他人事なので僕よりショックが小さいのだろう。
どうせ僕は女顔だし、女装して1年近く女子高に通ったし、髪は長いし、ウェストは貴子さんと同じサイズだし。
「最後の一つは余計です。」
お尻は貴子さんより小さいけど。
「大きなお世話です!」
どうして心の中が読まれるのだろう?
「思いっきり声に出てます」
「ところで瑞穂さん、受験の日の格好は?」
コホンと軽く咳払いをして、貴子さんは話を軌道修正する。
「そりゃもちろん、制服ですよ?」
「卒業見込みの証明書は?」
「出しました」
「どこのを?」
「もちろん、恵泉の」
貴子さんは思いっきり頭を抱え込んでしまった。
「すなわち、瑞穂さんは女子高の卒業証明を出して、女装したまま受験に臨んだ、という事ですね?」
「あっ・・・」思わず僕はぽんと手を叩いた。
「あっ、じゃありません・・・どうして男子高校生がその髪で合格したのか、不思議だったんですけど・・・」
「あはは・・・」
笑ってる場合じゃないけど、笑いしか出ない。
「さて、それじゃ、なぞが解けたところでそろそろお暇を・・・」
「みっ、見捨てる気ですか!?」
ズイッと貴子さんの顔の正面に顔を持っていく。ちょっと涙目。その目からプイッと視線を切る貴子さん。
「見捨てるなんて人聞きが悪いですわ、瑞穂さん。少し西域まで大妖怪蘇生実験の阻止に行こうかと・・・」
「なぜここで最遊記ネタなのかは流すとして、そういうあからさまな嘘を言われても対応の困るので辞めてください」
「しかし、本当に女装して受験に向かうとは・・・あきれて物が言えませんわ」
「でも、学校の説明会でも受験には必ず制服で行くようにと・・・」
「アホですか?」
「真顔で言わないでください。お願いします。」
あっ、帰ろうとしないでください。今、一人にされると際限なくへこみそう。
「アホでも女装大学生でも、私の愛は変わりませんよ?瑞穂さん」
優しく僕の体を抱きしめる貴子さん。甘いシャンプーの香に包まれる
「全然嬉しくないし、女装で通うのは確定ですか?って言うか、見捨てて帰ろうとしたくせに・・・」
「過去の事をグチグチと・・・」
「10秒前のことです。」
・・・・・・・・・・嫌な沈黙
「女装して通ってください!!!!!!」
「ぜぇぇぇぇったいいやぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
早春の静かな高級住宅地に馬鹿っぷるの叫び声がこだました・・・・
PS,恵泉女学院の学園長のとりなしで、何とか僕は晴れて男子大学生になることが出来ました・・・
馬鹿なネタを長々と書いちゃった・・・orz